ヴァーストゥ ~ 神話の時代より 3
『 ヴァーストゥの建築家 ― 眷属の役割(1) 』
今回は、ヴァーストゥの神ヴィシュヴァカルマンの眷属から誕生した4人の息子(建築家)のなかで、スターパティ(棟梁)についてお伝えします。
スターパティは、ヴァーストゥを読み解く重要なキーワードです。
考察を深めながら、意識との関係にも触れたいと思います。
ぜひ最後までご高覧ください。
ヴァーストゥの棟梁「スターパティ」
スターパティ(sthapaty)は、創造の神の眷属ヴィシュマカルマンの息子として生まれました。
スターパティの呼称は、建築の統括責任者=要である「棟梁」の役割に由来します。建築現場を指揮するだけでなく、指導者の資質より、ほかの3人の建築家である息子のグル(師)でもありました。
様々なヴェーダの知識に精通し、特にヴァーストゥシャーストラ(建築の科学)を深く学んでいます。
知識の繋がり
スターパティがヴァーストゥだけではなく
「なぜ様々なヴェーダにも精通しているのか」について、太陽を軸にご説明します。
ヴァーストゥは宇宙の建築基準法です。
「宇宙創造のルール」と同義であり、すべてのヴェーダの総称と言えます。
ヴェーダは40ほどの知識で成り立っており、
「すべてが繋がり関わり合っている」
「すべては最終的に合一された知識となる」
と説かれています。
※参考までに、合一されたヴェーダは「リク」の2つの音で表されます。
よって、リクヴェーダはすべてのヴェーダの総称となります。
ここでは、この繋がりについて、
’ ヴァーストゥ ’
’ 生命科学アーユルヴェーダ ’
‘ インド占星学ジョーティシュ ’
3つの知識からスターパティを読み解いていきたいと思います。
太陽と3つのヴェーダの関係性
太陽は、惑星のなかでも私たちに与える影響が大きく、生命の本質と説かれています。
様々なヴェーダで重要視される太陽を軸に、3つの知識の繋がりを考察しました。
〈 ヴァーストゥでは 〉
心地よく健全な環境づくりのために、住居はもちろん、街づくりなどあらゆる建築において「生活のリズムが太陽とともにあること」を重要視します。
太陽が地上にもたらす影響は時間帯によって異なるため、
○ 一日の始まりに最も活力に満ちた朝日が差し込むよう ―
「玄関(入口)は東向き」に
○ 昼食時にアグニが最も高まる南中の陽光が得られるよう ―
「食堂は南面」に
○ 日の入り後は休息に適した時間であるため ―
「寝室は西面」に 配置します。
太陽の恩恵を最大限に活かすことは、良い生活習慣や心身の健康につながると考えられるからです。
〈 アーユルヴェーダでは 〉
美しく健やかな心身であるために、消化や代謝の力である「アグニ」を重要視します。
アグニは火の質で、火の質を持つ※星のなかでも、特に太陽のアグニは強力です。
太陽が地上にもたらすアグニの力は、一日のうちで南中時に一番高まり、陽が西に傾くにつれて弱まります。
そのため、アーユルヴェーダでは「昼食をメイン」に「夕食は軽く」が望ましいと説かれています。未消化の食物はアーマ(毒素)となり、身体に蓄積して病気の原因になると言われています。
(※ほかには、火星が火の質に属します)
また、一日の生活リズムを整えるために、
朝日を浴びての散歩や、良質な睡眠が摂れる時間帯(日の入り~22時頃まで)に就寝することをすすめています。
〈 ジョーティシュでは 〉
太陽系の星の配置や運行などから未来を予見し、人生やものごとの好転をめざします。
太陽には「大我・アートマン」「自分自身」「健康」などの意味があり、人生の最終目標である悟りに欠かせない質です。
太陽を軸に様々なヴェーダの繋がりをご理解いただけたと思います。
様々なヴェーダに精通している理由
太陽を軸に3つの知識だけを見ても
〈 ヴァーストゥ 〉
健全な生活環境を創造するための知識
〈 アーユルヴェーダ 〉
健全な生活習慣を創造するための知識
〈 ジョーティシュ 〉
より良い(健全な)未来を創造するための知識
というように、
「健全さの創造」というキーワードで繋がり合っていることが分かりました。
ここで、健全さの創造とは、健全な意識を育むことにほかならず、
自己確立(真の自分=悟り=アートマン)につながる唯一の道であると気づけます。
3つの知識は本質的に同一であり、合一された知識(三位一体)となることも理解できます。
このように、
住居一つであっても、アーユルヴェーダ、ジョーティシュなどの知識を同時に活かせるからこそ、ヴァーストゥの「健全な環境づくり」は完成に至る ― スターパティの棟梁=グル(師)たる所以、様々なヴェーダの部門に精通している理由を明らかにすることができました。
知識としてのスターパティ
スターパティについて、ヴェーダの繋がりより視点を変えて、言葉の意味からの理解も深めたいと思います。
スターパティは、サンスクリット語で「確立する」の意味があり、
ヴァーストゥの別名 ‘ スターパティヤヴェーダ(確立の知識)’ はここから発しています。
語源からも、ヴァーストゥが建築の知識にとどまらず、広く、真の自己を確立するための「意識の建築学」であることが分かります。
意識の建築学の到達点こそ、最終的な悟りであるアートマン=ブラフマンとなります。
結び
私たちは、常に環境より様々な影響を受けながら過ごしています。
肯定的な影響もあれば、否定的な影響もあります。
だからこそ、身近な環境が健全であることは大変重要です。
豊かな恩恵(神の摂理)を享受できる環境に身を置くことは、意識の進化、真の自己確立を促し、すべてのものごとの成功や人生の成就につながります。
環境建築学ヴァーストゥの知識がその要であることよりも、すべてのヴェーダの総称と言えると理解できます。
そして、ヴァーストゥを構築する棟梁であるスターパティが様々なヴェーダに精通していることは、まさに「理・ことわりの具現者」であると言えます。
ヴァーストゥの棟梁スターパティの真髄とは
『 意識を含めたあらゆる創造の要 』
深遠なる叡智 ― 確立の知識が※5000年の伝承を経て今ここに在る‥
とても感慨深いことです。
(※諸説あります)
最後までお読みくださりありがとうございました。
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