■【より道‐76】戦乱の世に至るまでの日本史_それがしは佐々木道誉なり
我が家には「尼子の落人」という言い伝えがありまして、ご隠居である父が半生かけて、ご先祖さまのファミリーヒストリーを研究してきました。
父がまとめた随筆『尼子の落人』や『新見太平記』には、我が家が守ってきた土地や氏は、平安末期に以仁王の挙兵で、武勇を轟かせた、長谷部信連からつながるものであるのにもかかわらず、血筋は尼子氏という言い伝えがあるというものでした。
尼子氏のご先祖さまを辿ってみると、源頼朝を支えた佐々木一族になります。そして、佐々木氏の系統で一番有名なのは、中世の時代を駆け抜けた佐々木道誉です。
今回は、後世に語り継がれている逸話をもとに、フィクション含めて、佐々木道誉が婆娑羅とよばれた生き方がどういったものなのか。こころに残るエピソードを学んでいきたいと思います。
■ 佐々木道誉の生き方
北方健三さん著書の「道誉なり」や吉川英治さんの「私本太平記」を題材に人物像を想像することにします。例えば、北方健三さんは佐々木道誉をこのように表現しています。
船上山の後醍醐帝を討伐するために挙兵した足利軍と佐々木軍は、六波羅を攻め落とし京の平定につとめます。
そこには、『足利軍と佐々木軍で攻め落とした六波羅で、佐々木道誉は、市中見回りの仕事につくと、見回るときは、百人の兵と薙刀、弓を加えて前後には二騎ずつ騎乗の者をつけた。』
ーー佐々木道誉は、人のこころをよく理解していますね。そして、演じる者だなと思えるエピソードです。その根底にあるのは、笛や猿楽、華道や歌人、奇抜な服装などクリエイティブなものがあるのだと思います。
他にも、『佐々木道誉が雑訴訟決断所の要職に就くと、その様子に嫌気をさした。訴人との話し合い、貢物で都合のいい決断をしているである。そこで、佐々木道誉は、二人の公家を討ち、その背を踏みつけた。「この二人は、却下されるべき訴えを通すために、布五反ずつ受け取った。この訴状をここで読み上げようか。やせても枯れても、この佐々木道誉、道理を曲げてまで生きようとは思わぬ。」
ーーやはり、このシーンも、演じる者なわけですが、なにより、人の生きる道、道理というものが佐々木道誉の根底にあります。公家に対する嫌悪感からか、それが、武士道というものかもしれませんが、物事の判断すべてに一本のスジがあるように思えます。ここに、嘘と騙しのエッセンスが加わるから面白いです。
佐々木道誉は、嘘は嫌いなのです。『北畠顕家の京への侵攻を遅らせるために、佐々木道誉は、寺田太郎坊という悪党の頭を訪ね、悪党三万人を山中に集めるように依頼した。そのとき、寺田太郎坊は「お前の嘘が不満だ」と言い放つ。それもそものはず、相場の何十倍もの銭を渡すというのだ。しかし、その発言を聞いた佐々木道誉は、大刀を抜き、「俺が嘘を申したといったな。それは、許せぬぞ、男がここまで頼みに来たのだ。本心も語った。それをお前は、嘘といった。」』と言って、怒ったのです。
ーーじぶんを蔑まされたことに、怒ったのかもしれないですが、佐々木道誉の生き方をみると、嘘はつかないのです。武士に二言はないのです。ただ、命を守るために騙しや寝返りはありました。それは、先の先まで未来をよんで物事を考えています。
『鎌倉から京に向けて進軍した足利尊氏は、北畠顕家に背を討たれると、佐々木道誉は、錦旗はふたつあると、足利尊氏にアドバイスをします。
そして、足利尊氏は、光厳上皇から新田氏討伐の綸旨をうけ、九州から何十万もの兵を引き連れて京の都付近に攻め込んできた。すると、兵糧が持たないと攻めあぐねている足利尊氏に佐々木道誉が面会をして、近江国から兵糧支援を約束し、みごと、京都奪還に貢献しました。
しかも、それだけに終わりませんでした。京に通じる近江国の守護を「足利一門」にしようと企んでいた足利尊氏は、信濃から援軍に駆けつけ、近江国で足止めされている小笠原氏に任命しようと考えていました。
しかし、佐々木道誉は、悪党を自らの領地に放ち、荘園などを襲わせます。すると、足利尊氏は、小笠原氏に、佐々木道誉と共に、近江国を平定せよと命じます。
しかし、逃げ足の速い悪党たちにてこずり、小笠原氏の軍勢の兵糧が底をついてしまいました。そこで、佐々木道誉に兵糧を分けてほしいと願うのですが、京に兵糧を送らなければいけないから、分けられないというのです。
すると小笠原氏は、軍忠状と帰国の命があれば、信濃に帰るといいだし、見事、近江国から追い払いました。
ーー上記は、足利尊氏が、後醍醐帝に勝利し、新たな幕府を開くと確信していて、そのときに、近江国の領地まで奪いにくるはずだからと、先手をうって対応したということになります。足利尊氏でさえも、佐々木道誉の手の中で踊らされていると北方健三さんはいいたいのだと思います。
このように、まとめてみると、佐々木道誉というバサラ大名は、先の先まで未来を見据えて、人を魅了するほどの演技ができる。その根底には、まっとうな道理があるような人に思えました。