スクール長ダイアログ <価値創造教育の意義③>
11月14日 神戸大学V.School長 國部克彦
ひとまず,価値を「何らかの満足」と定義できたとして,この定義から,学生の価値創造能力を育成するプログラムを構築するにはどうすればよいでしょうか。学生の能力を伸ばすためには,知識の提供だけでは限界があり,価値創造に関する知識を学生に内面化する必要があります。そのためには,学生の「経験」が不可欠になります。ジョン・デューイが「経験と教育」(講談社学術文庫)で力説しているように,教育は経験と結び付けられて初めて効果を発揮するものですが,これは,学生に何らかの能力を身につけさせる場合に特にあてはまります。
その出発点は「満足」という経験を考えることから始まります。「満足」を経験として考えると,「満足」だけが単独で存在しているわけではなく,「満足」の前に,何らかの「期待」があることがすぐにわかります。「のどが渇いたので何か飲みたい」という「期待」があるから,水を飲んで「満足」するわけで,のどが渇いていないのに,無理やり水を飲んでも「満足」は得られません。また,外出中ですぐに水が飲めない場合は,どこかで水を調達するという「課題」が生じます。運よくコンビニエンスストアが見つかって,ペットボトルの水が買えるという「結果」に「満足」する場合もあるでしょう。
デューイは,経験を構成する2つの原理として,相互作用と連続性をあげています。上記のように,「経験」は,いくつかの要素に分割できますが,それらは相互に影響を及ぼしあっている(たとえば,コンビニが見つからなくて,公園の水道水を飲むとか)と同時に,連続しています(水を飲むと,ほっとして次の仕事に取り掛かるとか)。つまり,価値を「満足」と考えるにしても,単に「満足」という現象だけでなく,「満足」という経験の連続性と相互作用の中で,価値という現象を理解しないといけないわけです。
また,上記で述べた「期待」→「満足」の流れと,「課題」→「結果」の流れは,前者が主観的な感情内での出来事なのに対して,後者は客観的な行為として識別できます。どのような経験も,このような主観と客観の相互作用と連続性の中で体験されるわけです。これまで議論してきた「目に見えない価値」と「目に見える価値」の関係も,主観と客観の関係に他なりません。このような場の中で価値が創造されそして経験されるわけですが,私たちはこの場を「価値創造スクエア」としてとらえ,次のようなモデルを考えました。
課題 → 結果 (客観)
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期待 → 満足 (主観)
これは菊池先生が価値創造サロンやV.Schoolの開設記念式典で説明されたので,覚えておられる人もおられるかもしれません。3月に日本評論社から出版する予定の本では,この「価値創造スクエア」について,多様なバリエーションを示して解説する予定ですので,ここでは詳しくは述べませんが,価値創造教育では,この「価値創造スクエア」を,価値創造について考えるときに,共通の枠組みとして使用することができます。そうするとこで,教師と学生,あるいは学生相互間で,価値についての経験を共有することができるようになります。
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