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スクール長ダイアログ <SDGsの価値③>

10月9日 神戸大学V.School長 國部克彦

 SDGsは,個別の17の目標の寄せ集め,さらに各目標は169の個別のターゲットの寄せ集めなので,個々の目標やターゲットには意味はあっても,寄せ集めのSDGsに何の意味があるのかという話をしてきました。つまり,寄せ集めることの意味がなければ,SDGsの価値はないと言ってよいでしょう。しかし,2020年の現在は,この様々な目標を寄せ集めた全体にこそ,世界を救う可能性があると,私は考えています。それは,貧困や飢餓から人間を守るとか,気候変動から地球を守るとか,そういうレベルではありません。
 このことを考えるために,少しだけ歴史を振り返っておきましょう。SDGsが採択された2015年はサステナビリティにとって歴史に残る年でした。9月に国連でSDGsが採択され,12月には懸案であった気候変動枠組み条約パリ協定が合意されたからです。当時は,私もこれからはサステナビリティの時代が来ると講演でよく話していたものです。しかし,2016年から世界情勢は大きく変わります。2016年5月にイギリスが国民投票の結果EUからの離脱を決め,11月にアメリカ一国主義を掲げるドナルド・トランプが大統領に当選しました。アメリカ,イギリスという世界の民主主義を牽引していた国家が一国中心主義の傾向を強め,しかも自由経済の先頭に立つべきアメリカが極端な保護主義を訴えることは,サステナビリティを目指す世界とは真逆の方向です。英米以外を見渡せば,中国やロシアなど強権的な国家が力を増しており,特に中国では国家主席の独裁体制が強化され,人権抑圧が強まっています。ヨーロッパでは,極右勢力が台頭し,移民排斥の動きが強まっています。
 もう少し歴史を振り返れば,この状況は1929年の世界大経後の世界と酷似しています。経済不況からアメリカは極端な保護主義政策を打ち,アジアでは(中国ではなく)日本で軍部の独裁化が強化され,ソビエトは全体主義的国家体制を作り上げ,ドイツやイタリアでは極右政権が誕生したのです。第二次世界大戦がはじまったのは,世界大恐慌からわずか10年後の1939年です。もちろん,私は,現在が戦争の危機に瀕していると,危険をあおるような主張をするものではありません。しかし,世界の現状は自由がどんどん狭められていく状況であることは認識しなければなりません。さらに,2020年にはCOVID-19の蔓延によって,移動の極端な制限が重なり,大変深刻な状況になっていると認識すべきです。
 このような状況を打開するためにはどうすればよいのでしょうか。これまで列挙したような国々のリーダーに期待することは逆効果です。一国中心主義的な政策は,必ず他国との軋轢を生んで紛争が起きるか,一国が強くなりすぎて弾圧もしくは抑圧が起こるかのどちらになりやすく,どちらの道も人類にとって悲劇です。頼みの綱は,軍事力があまりに強大になりすぎて,戦争できない(しにく)という皮肉な抑止力ということでは,あまりにも人間として情けない状況です。何より非常に危険です。このような状況を打開する手段としてSDGsを位置づけられないかというのが,私の主張の核心です。

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