スクール長コラム 「デザイン思考を考える」⑦
9月17日 神戸大学V.School長 國部克彦
<テスト(test)>
プロトタイプの段階が終わったら,いよいよテスト(検証)の段階です。デザイナーであれば,ユーザーに解決案を提供する段階です。価値創造であれば,私たちが考えた新しい価値のアイデアを社会の中で試す段階です。これは,私たちの閉じた<世界>から,社会という開かれた<世界>との接合でもあります。自分の主観から,複数の協力者たちの間の主観を経て,いよいよ(人間がより多いという意味での)客観の世界へ旅立ちです。ここでは,プラグマティズムの思想が有効に機能します。つまり,プラグマティズムは,社会での実践の中に世界の原理があるという考え方なので,プロトタイプをその原理に照らして検証しないといけません。私たちがこの段階で提供するものは,最終的なソリューションではなく,試作品ですから,テストとプロトタイプの間を往復して,試作品を作品にまで仕上げていくことが必要になります。そこで重要なことは経験です。デザイナーであれば顧客との経験の共有が,価値創造であれば,価値の受け手との経験の共有が次のステップの始まりになります。価値の本質は,共創(co-creation)であると主張した経営学者のプラハラードは,共通の経験こそが価値の源泉であると主張しています。これは,プラグマティズムの始祖ジョン・デューイの名著『教育と経験』にも思考として共通しています。これは第1段階の<共感>の実践バージョンといってもよいでしょう。さて,私たちのアイデアを本格的に社会に実装するためには,時間も考えないといけません。社会の構成原理は時間の長さによって変化するので,成果物の内容も変わってきます。製品なら耐用年数ですし,1回きりで消費されるサービスであれば,リピーターの確保の問題でもあります。この時間の問題は,デザイン思考だけでは取り扱えない難問ですが,この問題が見えて来れば,あなたのデザイン思考はほとんど成功したと言ってよいでしょう。
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