スクール長ダイアログ <発想を転換するにはどうすればよいか①>
10月8日 神戸大学V.School長 國部克彦
昨日は,価値設計PBLの第1回目で,農林中央金庫進行役員でAgVenture Lab代表理事の荻野浩輝氏の講演と進行で「食と農」について考えました。PBLのお題は,「農福連携(農業と福祉の連携事業)」か「食品ロス」についての事業プランでした。多くの学生の方は,「食品ロス」について提案し,活発な議論がなされて,とてもよかったと思います。学生の提案には,「賞味期限アプリの開発」,「量り売りの普及」,「規格外野菜の活用」,「病院の活用」などがあり,それぞれ工夫を凝らしたプランがありました。
病院を活用した提案はかなりオリジナリティのあるものだったと思いますが,賞味期限アプリや,量り売り,規格外野菜の活用などは,すでに事業化されています。もちろんそれらに対して追加的な価値を付けることは十分考えられますし,重要なことと思うのですが,聞いていて,もっと根本的なところから発想できないかなあ,と感じました。皆さんは,食品ロスが発生するところから考え始めてしまっていますが,もっと根本にさかのぼらないと,斬新な発想はなかなか生まれません。
そもそも「食品ロス」とは何なのでしょうか。皆さんは,レストランに行って食べ物を残したり,購入した食品を使用せずに捨ててしまうことや,スーパーや飲食店での売れ残り,あるいは規格外の野菜や魚などを思い浮かべるかもしれません。しかし,これらは本当にロスなんでしょうか。もしロスだとしたら,そのロスは誰が負担しているのでしょうか。たとえば,レストランに行って,エビフライ定食を注文してエビを一尾残したとすると,そのエビは当然食品ロスですが,それはレストランの損失でしょうか。そんなことはありませんよね。そのエビの値段は定食の価格に含まれていて,そのエビを食べようと食べまいと,少額の廃棄コストを除けば,経済的にはレストランのロスではなく,エビフライ定食を注文したあなたの負担になっているわけです。
つまり,食品ロスの大半は経済的には何らかの形で消費者に転嫁されて,消費者が負担していることになります。ですので,この経済システムが回る限り,お店側(企業側)には食品ロスを減らそうという経済的インセンティブが働きにくいのです。これは,コンビニでの弁当の廃棄などについても全く同じです。食品ロスをなくするためには,消費者が余分なものは買いたくないと言わないといけません。「量り売り」はそのための制度ではありますが,買う方も売る方も面倒なので,それほど普及していません。なお,「面倒」というのも一種のコストです。
これらの問題を解決する手段として,たとえば,残したエビフライの値段を返してもらうシステムを導入すればどうなるでしょうか。エビフライ定食500円として,エビを残したらお店が50円返金するのです。食べ放題とは全く逆の発想です。最初から,食べきれない商品しか置いていないお店に責任があるという発想です。もちろん,返金してもらってもエビは捨てられるわけですから,その個別の事象レベルでは食品ロスは減りません。しかし,お店にとっては返金すると損失ですから,もっと顧客のニーズにあったメニュー作りを工夫するようになるでしょう。最初に,顧客がどのくらいのものを,どのくらいの量,欲しているかを反映したメニュー作りが進むと思います。顧客ごとのメニュー作りに進んでいくことでしょう。全品アラカルト方式はこれに近いかもしれませんが,アラカルトでも注文しすぎて残されると店は損をするので,顧客が食べ残しをしないように様々な工夫をするようになるでしょう。これは価値の共創です。このように考えていけば,食品ロス返金システムによる食品ロスの削減という事業ができるかもしれません。
もちろん,こんなビジネス,実際にできるかどうか全然分かりません。しかし,皆さんが考えた,食品ロスになりそうなものを消費期限までに消費したり,誰かに売って消費したりするのではなく,ロスを返金してもらうことで結果として食品ロスを減らそうというのは,一種の発想の転換です。 V.Schoolでは,是非,このような発想の転換を試してみてください。
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