スクール長コラム 「デザイン思考を考える」⑤
9月14日 神戸大学V.School長 國部克彦
<アイデア出し(ideate)>
定義が定まったら,それを実現するためのアイデア出しのステップに入ります。アイデア出しは,デザイン思考の中で,一番楽しいステップかもしれません。アイデアを出すためのいろいろなツールも開発されているので,それらを利用してみるのもよいでしょう。アイデア出しで一番重要なことは,定義を実現するためのアイデアをできるだけたくさん出すことです。アイデアとは可能性ですから,それは可能性という「世界」をできる限り拡張する作業になります。デザイン思考で,人の意見を批判してはいけないというルールがあるのは,その可能性を妨げる危険性があるためです。しかし,一旦広がった世界は,収束させる必要があります。アイデアは,いくつかのパーツに分けて,ポストイットなどで貼っていく方法がありますが,模造紙がポストイットでいっぱいになったら,今度は構成要素同士の関係を考える段階に入ります。ポストイットの間に矢印を引くのは,関係づけるための方法です。関係をつけるということは,要素と要素を論理的に結び付けるということで,ここではロジカル思考が役に立ちます。また,一旦,要素間の関係が結ばれたらそれを全体としてイメージすることができます。そこから考えると,必要と思っていた要素が不要であったり,欠けている要素が発見できたりします。それにはシステム思考の全体を俯瞰する考え方が役に立ちます。アイデア出しは,最初は主観からどんどん考えを出していって,それをロジカルにつないだり,システマティックに検証したりするプロセスです。つまり,それは主観と客観の往復運動です。ただし,アイデア出しで重要なのは,ロジックやシステムのような客観にこだわることではなく,むしろ最初の「共感」のイメージ,すなわち主観にこだわることです。主観を中心にしながら,客観を補助として,アイデアを収束させていくことが,大切です。これは,価値についても同じで,自分の価値観にこだわらなければ,価値を考える意義はないとさえ言えるでしょう。
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