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スクール長コラム 「人生の豊かさ」 <構成要素から世界に迫る>

今日は,「世界」へのアプローチ法の一番目,「世界」の構成要素からアプローチする方法を考えてみましょう。この方法は,難しい言葉で言えば,要素還元主義ともいえるもので,複雑な全体を構成している個別の要素から分析することで,全体(つまり「世界」)へ迫ろうとするものです。これは科学の基本的な考え方で,ほとんどの科学は対象を要素に分解して,その本質を理解しようと努めます。自然科学でも社会科学でもデータ分析はこのアプローチの典型です。科学的思考とは,「分ける」ことであり,「分ける」から「分かる」というのが基本です。「分ける」ときに大事なことは,誰が「分け」ても同じになる必要があります。そうでないと構成要素間の関係が再現できません。これが客観性です。私たちが,学校で教わってきたことも,現在学校で教えていることも,大半はその方法と成果です。つまり,それは分けられた「世界」です。要素から全体にアプローチする方法は,具体的に物事を考えやすいので,多くの人が無意識に採用している方法でもあります。それでかなりのところまで「世界」は見通せるような気もします。それは間違いではありませんが,一方,それは「世界」とは同一ではなく,どうしても超えられない一線があります。それは,要素からは全体の大きさが類推できないこともありますが,それより重要なことは,それぞれの要素はその要素がある環境(もしくは文脈)の中で意味を持つものなので,その環境から取り出した要素はすでに本質が変容してしまっているという問題があります。魚を研究しようとして,川から魚を採取して,研究室に持ってきても,その魚は川で泳いでいた時の魚と同じではありません。データの取得においてもその条件と計測方法が常に問題にされますが,逆に言えば,そのデータはその条件と計測方法の下で使用できるものにすぎません。つまり,要素に還元しても,全体から切り離しては理解できない側面が必ず残るのです。そこで今度は,要素からではなく,全体の方からアプローチしてはどうかという考えが生じます。

國部克彦

8月31日11時33分

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