スクール長ダイアログ <神話から自由になるために②>
11月28日 神戸大学V.School長 國部克彦
もう少し「神話」の意味を考えていきましょう。私は,現代の二大神話は「財政赤字」と「環境問題」だと思っています。今日では,この2つの話題をその根本からから議論することは,「正統派」の会合ではタブー視されていて,問題提起すること自体に勇気が必要になります。議論するのに「勇気」が必要という事実そのものが,この問題の「神話性」の強さを証明しています。
「財政赤字」については,日本では国債等の長期債務残高が900兆円程度あり,日本のGDPは500兆円程度なので,収入をはるかに超える借金があるので,「深刻な問題」であると言われています。そう言われると,ほとんどの人は,家計や企業の会計を思い浮かべて,これは本当に深刻な事態であると思ってしまうかもしれません。しかし,よく考えてください。国は家庭や企業とは違います。国の借金の900兆円は,基本的に日本国民のために使用されているので,日本の財産がそれだけできていることを示しています。逆に,国家が黒字だと,国民からそれだけ吸い上げているわけです。
したがって,問題は「赤字」の大きさではなく,このようなことを続けていれば,いずれ通貨が暴落して大変なことになるという「恐れ」なのですが,この「恐れ」こそが,「財政赤字」神話の本質なので,この「恐れ」が本当かどうかを解明することはタブーになっています。なぜなら,それは「神」を暴くことになるからです。通貨の暴落について議論するためには本が一冊くらい必要になりますが,少なくとも,現在の日本円暴落の兆しがないことと,過去に通貨危機から立ち直った国が多数あることを考えると,この「恐れ」がどのくらいの「恐れ」であるべきかが少し見えてくると思います。このように思考しないと,「財政赤字」の神話からは自由になれません。
「環境問題」は,自然が介在するため,「財政赤字」よりももっと複雑です。現在,気候変動で大変なことになると騒いでいますが,これも「恐れ」を作り出して,人間の行動を変えようとする点では同じです。しかし,気温が上昇すれば(本当に気温が上昇するとしての話ですが),どのくらい大変なことが起こるのか,わかっている人はどの程度いるのでしょうか。その中で最大の問題のひとつに,永久凍土の融解による海面上昇がありますが,永久凍土が融解すれば,それだけ人間が住める場所が拡大するのですから,そちらに移住したらよいだけです。人類は,何十万年もの間そのような生活を続けてきたはずです。しかし,国境があるからそれができないのであれば,世界のリーダーは直ちに抜本的な政策を取らないといけないはずです。しかし,彼/彼女らが打ち出す政策は,自分たちが多分生きていない未来の目標ばかりです。
これでは,環境活動家の少女グレタさんが国連で泣きながら訴える意味も分かります。つまり,リーダーたちは,自ら環境危機をあおりながら,その改善のための二酸化炭素排出の即時停止のような,抜本的な対策をとろうとしないのです。これはまさに,聖職者が,庶民に禁欲的なつつましい生活を説きながら,自らは,飽食三昧の生活をしている図と重なるのではないでしょうか。
誤解していただきたくないのは,私は「財政赤字」や「環境破壊」が問題ではないと言っているのではありません。そこに問題があることは事実ですが,その問題を皆さんは「正しく」理解したうえで自らの思考を組み立てていますか,と問うているだけです。なぜなら,これらの問題の核心には,「恐れ」があって,それを操作的に利用しようとする人々が多数いるからです。ただ,彼/彼女らの大多数は「善人」なので,問題がタブー視されてしまうわけです。