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スクール長ダイアログ <学生との対話にまた教えられる>

10月30日 神戸大学V.School長 國部克彦

 昨日の価値創造サロン「日常生活における心の豊かさについて」はJTプロジェクトの成果に基づき,JTの大瀧さん,参加学生のK澤さん,M野君も参加して,V.Schoolからの私と祇園先生も加わり,JTプロジェクトコーディネータの安川先生の司会のもと,大変豊かな議論ができました。
 私は10分の報告時間でしたが,登壇が決まった9月上旬から,どのような話をしようか入念に考えてきました。JTプロジェクトにも毎回出席し,「心の豊かさ」について理解を深めました。JTプロジェクトでは3回目の森内さんの哲学の話が学生にも高評価だったので,そこで語られなかったヴィトゲンシュタインをベースに話をしようと決めて,「スクール長ダイアログ」でも連載しました。ヴィトゲンシュタインを論じるために,全集12巻を揃えました。私の話のポイントは,すでにこの連載で書いていますが,「豊かさは語れないけれど示すことはできる」ことと,「豊かさは使用(実践)においてのみ生じる」の2つです。10分の報告は割とうまくいったと思いました。
 しかし,そのような私の自己満足も,すぐ後に登壇したK澤さんとM野君のプレゼンの引き立て役でしかありませんでした。K澤さんは,言葉ではなく絵でJTプロジェクトを振り返りました。これは私が述べた,「語りえぬものを示す」方法そのものです。私は,「語りえぬものを示すことができる」と語っただけ(だから示していない)のに対して,K澤さんは実際に「示した」わけですから,彼女のほうがレベルが高いことは明らかです。また,井の中の蛙がどうしたら井から出られるかについて考察し,漫画家としては手塚治虫が最初に用いた「スターシステム」という手法が重要と述べて,どの漫画でも同じキャラクターの「ヒゲオヤジ」のように生きるべきという「ヒゲオヤジ理論」を展開しました。手塚治虫の漫画でヒゲオヤジはいろいろな漫画にいろいろな役で出てきますが,周りに影響されることなく,性格はいつも同じです。これは小池先生のEpistemic Community理論を上回る新理論ではないでしょうか。
 一方,M野君は,プラハラードなどを参照しながら,ストーリーと経験の重要性を述べて豊かさを語りました。彼は,JTプロジェクトやV.Schoolで学んだ価値や豊かさを考えていくうえで,価値を実践する必要があると考え,生まれた初めて寄付をしたそうです。その寄付によって,自分の感情が変わり,豊かになったような気がしたとのことでした。これは,まさに価値の実践で,彼は「豊かさは使用においてのみ生じる」ことを実践して証明したわけです。私は,単にヴィトゲンシュタインを引いて,「豊かさは,使用(実践)において生じる」と述べただけですが,M野君はそれ実践して感情が変わったことを経験したわけですから,私よりも何倍も説得力があります。
 そのあと,自分の手を見て細胞を感じろと語る祇園先生,豊富なビジネス経験から価値や豊かさ,そしてマネジメントとの関係を説く大瀧さんが続き,最後まで刺激的な議論が続きました。パネリストの議論がうまく絡まったのも,途中の学生2名の話があったからで,K澤さんはパネルでも最も目立っていました。今週は2回も学生から深い学びを得て,私も少し豊かな気分になりました。

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