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スクール長ダイアログ <金儲けは悪いことか①>

10月20日 神戸大学V.School長 國部克彦
 Value Schoolは価値とは何かを考え,その創造を目指すスクールですから,価値が話題の中心になります。価値とは何かを考えるときは,抽象的な価値を捉えるために,経済学すら超えて哲学的な高尚な議論が繰り広げられますが,価値を実装する段階になると,価値を貨幣化(マネタイズ)しないといけないので,その途端に「生臭い」話が入ってきます。この「生臭い」という表現は,対象の本質を衝く絶妙の日本語で,大学では人事を非公式に相談する段階などでも使うのですが,若い世代の方は,そのような場面に出会うことがあまりないので,本当に「生臭い」臭いを嗅いだとき以外は,このような表現を使ったことがないかもしれません。
 私は経営学研究科の教員ですので,学内で他の分野の先生方と議論していると「経営学は金儲けの学問だから」と言われることが,時々あります。私たちは,経営学にはそのような側面があることは分かっているので,そう言われても,「物理学は宇宙を扱う学問だから」と言われたときの物理学者のように,特に何も感じませんが,「金儲け」が「悪いこと」のニュアンスを帯びているのなら,やはり少し説明しないといけないかなとは思います。なぜなら,「経営学は金儲けの学問」という人のほとんどは,「金儲け」をしたことのない人たちだからです。
 実は,「経営学は金儲けの学問」と言われることは経営学にとっての誉め言葉で,逆に,金儲けをした人たちに「経営学では金儲けができない」とか,MBA教育のせいで企業や国家の競争力が落ちた(アメリカでは実際そう言われた時期があります)とか言われると,経営学の存在意義を疑われていることになります。この方が経営学にはずっと深刻な問題です。
 ところで,金儲けは悪いことなのでしょうか?善いか,悪いかの,善悪を問われれば,これは悪いことと言わざるを得ないでしょう。キリスト教,イスラム教そして仏教も金儲けを強く戒めていることからも,人間の知恵としてこれは明らかです。いや,マックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」でプロテスタントが資本主義の精神を作ったと言っているではないかと反論したい人は,一度聖書を読んでから,ウェーバーを読み直してみてください。
 これは宗教だけの話ではありません。皆さんは小さいころ,「お金は汚いもの」と教えられませんでしたか?貨幣を触ったら,汚いから手を洗いなさいと,言われた経験を持つ人も多いのではないでしょうか。最近は新型コロナウィルスが出てきて,本当に汚いかもしれませんが,それ以前の日常生活において,お金を触って病気になる可能性は皆無だったと言えるでしょう(多分今も実際はそうでしょうが)。それなのに,なぜ「お金は汚い」と子供に教えないといけないのでしょうか。
 以前,村上ファンドを創設して,企業買収を繰り返して経済界を席巻していた村上世彰氏が,インサイダー取引で逮捕される寸前の記者会見で,「お金を儲けることが悪いことですか!」と叫んだのを今でも忘れることができません。東京大学法学部を卒業して通産省に入り,40歳前でファンドを設立して,経済界に大きな影響を与えた(阪急と阪神が合併せざるを得なかったのも村上ファンドから身を守るためでした),日本では超エリートの村上氏が,こんな簡単なことも知らなかったのかと,唖然としました。なぜなら,宗教は抜きにしても,「お金を儲けることは悪いこと」に決まっているからです。

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