見出し画像

国内のEdTech市場を徹底解剖(後編)

前編では、国内EdTech企業をざっとまとめて並べてみただけですが、後編ではもうちょっと徹底解剖していきます。

前編はこちら。


EdTech領域に存在する市場


さて、前編のまとめで、EdTech企業といっても、サービスの提供形態は様々であることがわかるかと思います。ざっくりとカテゴリ別に分類すると、次のような市場が存在することが見えてきます。

★オンライン学習サービス★
国/数/社/理/英などの主要5教科を、スマホやタブレットから学習できるサービス。学習塾や家庭教師を補完するものとして契約されるケースが多く、子供を持つ親が契約したり、あるいは社会人が自己研鑽を目的として自費で契約しているサービスです。最も成長期にある市場だと考えられます。

★プログラミングスクール★
WebアプリケーションやAIなどの開発者を、オンライン学習で養成するための短期集中講座です。社会人が自己研鑽を目的として、契約するケースがほとんどだと考えられます。業界トップクラスの「プログラミングスクール」には、年間約3000人以上の人たちが新規に入学しており、緩やかに成長している市場です。

★教育ICT★
学校や学習塾において、教育体制を支援するためのプラットフォームです。しかし、予算上の都合であったり、運用できる人材不足などの理由が原因で、近年は市場全体が伸び悩んでいたと考えられます。国や監督省庁の方針が変わったり、あるいは各都道府県が独自の教育政策を掲げることによって、公立学校などの環境整備が刷新されれば、新たなビジネスチャンスが今後生まれる可能性が高いです。

★企業向けeラーニング★
企業に就業している社会人のために、基本的なビジネススキルやマナーなどをパソコンで学ぶためのオンラインサービスです。法人とのライセンス契約が主体ですが、近年におけるビジネスのスピード感や移り変わりに追いついていないコンテンツも多く、契約数は全体的に伸び悩んでおり、市場は衰退期に突入しています。

(ほかにもEdTechにはいくつかのカテゴリが存在しますが、いまだ成長途上の市場という段階なので、この記事内では取り扱わないこととします。)


EdTechではどうすれば売上を最大化できるのか?


EdTechにおけるマネタイズ上の根本的な課題は、学習が完了した受講者はすぐに解約してしまうこと。つまり、基本的に「卒業」があることです。したがって、卒業生よりも多くの入学生を、常に獲得し続けなければいけません。

教育機関や企業などを取引先としているtoB市場であれば、中の人たちの入れ替わりが必ず毎年のように発生します。なので、そういったところから契約を獲得できれば、入学生を安定的に確保し続けることが可能になります。

具体例でいうと、例えば「プログラミングスクール」の主な収入源は、入学希望者の入学金や受講料のほかに、人材紹介サービスを通じた仲介手数料があります。よって、受講者のスキルを一定水準以上まで高めて、受講者の転職活動を成功させるほど、売上がどんどん上がっていきます。

しかし一方で、卒業されたらそれっきり、卒業生は収入源になりません。つまり、売り切り型のビジネスになりがちです。とはいえ、入学希望者を広く公募するためには、広告費として多額の資金が必要になりますし、受講生を育てるためのプログラミング講師の人件費が重しとなって、赤字経営に陥ってしまうスクールもいくつか存在してます。

なので、結論に戻りますが、個人を相手にしたtoC市場の新規開拓よりも、toB市場の顧客のほうを重点的に開拓しながら、顧客満足度をある程度維持していくことが、結果的に売上の最大化に繋がります。


EdTechのコモディティ化という毒薬

前例にあるようなプログラミングスクールだけに限ったことではありませんが、「教育」というテーマには「必ず参考にする教科書」みたいなものがあるはずです。

学校教育だと、教科書の内容と違うことを解法にしたり、正解にしたりするわけにもいかないので、市場競争が進むほど全体がコモディティ化してしまい、似たようなコンテンツを提供する企業だらけになっていきますし、そうした類似品同士の戦いに持ち込まれたときに最後に勝ち残るのは、より大きな資本を持っている大企業です。

そんな環境の中において、製品やサービスを差別化するには、人(講師)が人(受講生)にサービスを提供するサービス業であることを意識して、ユニークな特徴やバックグラウンドを持つ講師を看板講師として採用したり、社長や社員がSNSなどに露出して名前を売っていくしかないと思います。

例えば、コンサル会社でも広告代理店でもホストやキャバクラでもいいんですが、サービス業。人が人にサービスを提供する事業、知的労働・頭脳労働では、お客様に指名される人材を揃えることが、会社の売上や利益に繋がる仕組みになっています。これはもう絶対にひっくり返せないビジネスの原則としてそういう状態です。

なので、入学希望者が「講師、もしくは社長や社員をバイネームで指名する状態=サービスが指名される状態」を作っていくことが、金融的な資本を持っていないチャレンジャーやベンチャー企業には不可欠ですし、そのほうがよりかえって業界全体が盛り上がっていく方向に進んでいくんじゃなかろうかと思います。

もしくは、「中国語学習」のようなまだ定番と言えるサービスが存在しない未開拓の領域に飛び込むほうが面白いんじゃないかと思います。

もし仮に、大きな資本を持つ大企業が「中国語学習」のようなまだニッチな市場に飛び込もうとしたとして、大企業の大きなチームが未開拓の小さなニッチ市場に展開すると赤字を抱えやすいですし、そんなところに営業や広告を投入してくることもまず滅多に無いので、なかなか手を出してこないっていう事情があります。


EdTechが新参者にとって厳しい環境である理由

toB市場を開拓する上でのネックとなりやすいのが人件費です。学習塾や学校などの教育機関、もしくは企業のほうから一定数以上のお問い合わせがある状況ならばインバウンド営業に注力してもいいと思いますが、多くのEdTech企業が置かれている状況は、未だ決してそのような甘い環境ではないというふうに伺ってます。

仮に、毎年100校(社)への導入を目標にしたとしましょう。会員アカウントを発行するまで話が進んだ場合でも、現場で実際に稼働までに至る可能性を約10%。よって、毎年およそ1000社以上への営業が必要です。導入支援などの手厚いサポートまでを踏まえるならば、それだけでも最低100人前後の営業や営業支援のための人員が必要になってしまいます。

幼稚園から大学まで含めると、日本全国に学校はおよそ58,500校あるらしいので、年間100校くらいのペースでは、市場シェアはほとんど獲得できません=信用に足る実績を十分には獲得できません。(ちなみに、学習塾は全国に55,000校あるので、教育機関全体ではおよそ113,500校が存在します。)

EdTech市場は、既に教育機関との繋がりをたくさん持っている会社にとってこそ、絶対的・圧倒的に有利な戦場です。それは企業努力の賜物なので、ズルでもなんでもありません。そこに名前も売れていない新参者の事業者が飛び込んでいっても、まったく相手にされない可能性のほうが高いわけです。

それでも切り込まないといけない状況というのも世の中にはあるというか、サラリーマンの事情としてそういうこともあると思いますが、そのときにはまだ未開拓の領域あるいは戦場を発見して、そこにうまく切り込むほうが得策です。

前回の記事で簡単に紹介した「LITALICO(りたりこ)」さんは、そうした点においては、とても戦略的にうまく切り込んでいってるなと思います。


EdTech市場における成長企業の条件

EdTech領域で、高い売上成長率や利益の伸びを実現している企業に共通する事項を抜き出すとすれば、

1.教育産業において、高い信頼感や注目を集めるネームバリューを持っており、実際に過去に教育施設などとの取引実績がある。(既に顧客の名簿を握っていることは、サービス展開の戦略上とても重要。)

2.これまでは、対象人口が約1000〜1500万人前後で、アップサイドが既に400万人前後まで成長している市場を狙ってきた。(幼児〜小中学生、あるいは社会人のような、ボリュームの大きい「マス」を狙っていた。)

3.人が人にサービスを提供している。(有名な先生を講師として積極的に採用したり、社長がYoutuberとして活躍するなど、オンラインでサービスを提供しているけれども、人が指名されることで結果的にそのサービスが選ばれるという差別化をしようとしている。)

必ずしもこれらはすべての成長中のサービスに当てはまるわけではないけれども、近年成長しているEdTechはこれらの条件に当てはまっていることが多いです。

もっと掘り下げて言ってしまえば、誰もこれからの教育環境というものに対して正解を見出だせていないので「長いものに巻かれろ」という状態だなというふうに感じてます。


パソコンはもはや時代遅れ?小中学生のパソコン所有率は25%前後

パソコンを使用を大前提にしているサービスだと、一部に成長の鈍化が起きています。

日本国内の大学生や社会人におけるパソコン所有率は80%前後とされていますが、小中学生のパソコン所有率は25%前後で推移しています。(平成25年のデータなので、最近はもう少し数字が動いていると思います。)

なので、学生向けのサービスなら、なるべくスマホやタブレットを使用させることを前提として、月額1000〜3000円までで使えるサービスが売れ筋になりやすい傾向があります。

画像1

※ 「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」より引用

なお、これまでの教育施設では、導入校側の予算や環境、あるいは人材不足などが足枷となって、ある程度の時点で成長が足踏みすることがありましたが、「EdTech導入補助金」のような補助金を活用してEdTech事業者への委託などが広がっていくことで、状況は少しずつ改善されていくと思います。


さいごに


現時点において、公教育の改革は急務であり、国策として重要な柱として位置付けられると思うので、EdTech企業はより活躍の場を広げ、業界全体が盛り上がっていくのではないかと想像します。

この先の世界がどういう形に転ぼうとも、これからの子どもたちは、私たちの世代が経験したことのないような未知でエキサイティングな教育を受けられるような世界になればよいなと心から願っています。

前編はこちら。