【第64回短歌研究新人賞】サイクル【応募作30首】
サイクル 桐崎鶉
(★は佳作として採っていただいた作品です。『短歌研究』2021年9月号(短歌研究社)に掲載されています)
★自転車で転けたと杖を突いてきたくせにどでかい辞書しょっている
寝坊してさぼったZoom講義では女性の悲鳴がしていたらしい
発表だっつってんのに鬱アニメなど観だして、ほんとよくないと思う
なにを観ても推しが死ぬらし 黒装の友が発表者席に座る
話そうとすると誰かがしゃべりだすのでなんかもういっかとなれり
★名前よかテーマで呼ぶのがわかりよい〈祭り〉と〈墓〉で昼食をとる
★論文を複写せむとてコピー機へ洋服代を食べさせている
バイト先のシフト着々減っていく 新しい社員さんが入った
小説が書けるだなんてなにごとの長でもなくてレジ打っている
主人公以外全員死ぬ話書きたし ドトールコーヒーの窓べり
みどりの日の埼京線は平和にてあなたもお仕事だったんですね
今日めっちゃ空いてんなってたぶんみんな思ってるのにみんなスマホを見てる
誰も乗らない池袋 どことなくキタニタツヤもひそやかに鳴る
工務店のチャリのドリンクホルダーに突っ込んであるストロングゼロ
飯を食いページ繰りつつ流されるU-NEXTには同情してる
★人命が軽い映画は愉快なりロンドン市街に溢れるゾンビ
みんな死ぬと思ってたのにヒロインと結婚したし子どもも出来た
映画版『鬼談百景』第二話で停止したままマイリスにある
推しBが親をころして推しAから離反してから飯が食えない
誕生日五時開演のチケットが一万六千円に戻った
★もういいと言ってほしいよトイレ用洗剤で風呂のタイルを磨く
ああこれは徹夜のあとのチューハイで失神したとき入れた罅です
ハンニバル・レクター博士の気持ちにて鶏胸肉に穴あけている
外付けの脳があともう二個ほしいレジュメの裏にネタ出している
金曜に捨ててしまった短歌誌に載った短歌が思い出せない
家庭運が最悪らしい筆名で親の離婚のうたなどを詠む
家がどうなったとて演習は延びないパワポの推敲をする
サイゼさえ潰れてわれら宅飲みのLINE通話で管を巻くのみ
いつのまに落伍者然が板につきぼくらけんきうしゃになりたいです
窓を開けて部屋の空気を換えている 誰かが自転車のベルを鳴らした
ほんとうにありがとうございます。いただいたものは映画を観たり本を買ったりご飯を食べたりに使わせていただきます。