006 指先に広がる深海
今日、必要に迫られて服を買いにいった。
店員さんのネイル。
'なんって綺麗な青なんだろう'
他人様の指先を見て、初めて心が踊った。
今までは、他人様の指先をお見かけしても
ネイルをしているという事実を
事実として脳が認識するだけだった。
こんなことは初めて。
この人は色に愛されてる人間だと
レシートをもらうとき、ひしひしと感じた。
純麗な青色と対照的な、手入れしていない私の指先。
この人には、私が色を失った人間に見えるだろう。
日々に忙殺されている自分がそこに現れていた。
小っ恥ずかしかった。
深海の絵を鑑賞したあの日の帰路の、あの余韻。
それを思い出させてくれた店員さんに感謝したい。