本はひみつ道具

校庭に行くのが面倒だと嘘をついて教室で本を読んでいた


誘われたい気持ちもあるけど、その日は喋りかけられたくないから本には悪いが読むフリをさせてもらった


悲しいことにポケットからはティッシュしか出てこないから、セルフで効果音をつけて机の中から得意げに本を出す


大勢の人と一緒に同じ空間にいると、時間も自分もどこにいるか分からなくなる


そこに1人の人間が存在し、共に走り回ることができればあの頃は成立していた


本を読むのは別に偉いとは思わないし、楽しいから読んでいるだけ


話しかけたりするのが苦手な私は"何読んでるの?"を永遠に待ち続けた


本の大きさが大きい程、子供の目を惹くと子供が小さい頭で考えたのだ


図書室に向かい、大きい本は下段に多いので血眼で探す


なんだ、この分厚さは!!忘れもしない”ギネス世界記録2010"である


拾い画ですみません。

本は1週間借りることができるから、その分厚い塊を休み時間はほぼずっと持ち歩き続けた


今思うと変なヤツがすぎるが、漫画の主人公になった私がそこにはいた


数人が向こうからこちらに猛スピードで接近してくる


その時!私の手からその分厚い塊は姿を消した


一瞬の出来事であった


隣の教室から今までに聞いたことがない程の歓声が起こる


彼らはなんといつも校庭で走り周っていた人達だったのだ


授業終了のチャイムとサッカーボールを奪い合い共に走り出していくことが当たり前だった彼らにとって、それは紛れもない未知との遭遇でした


話しかけてもらいたいが故に大きな本を手にしたがたった一瞬目にしただけで私と話すより、それを読んでみたい!という衝動をそれは駆り立てた


少し悲しさを覚えたがその時1人の男の子が私に話しかけ、”一緒に見ようぜ!これすっげえ面白いぞ!"


それ借りてきたの実は僕なんだよねとは言えなかった


今思い返すとそれを言わなかったお陰で彼らと友達になれたと思う


本という存在を教え、私は次の日サッカーを教えてもらった


その時から高校3年生まで1つの球を追いかけ続け、本など読もうともしないくらい夢中になった学生生活を過ごさせてもらった


一瞬の出来事は誰かの人生に何十年も影響を与えることができる


明日も歩くふりをしよう、何かの出逢いがある

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