慣れやすいUIは間違ってもいいUXから生まれる_事例編_

慣れるUIをつくる 事例編

前回のおさらい

「慣れを生むデザイン」は難易度が高いですが、慣れによる体験を無視することは出来ません。

ユーザーが触るものを作るデザイナーであれば、慣れるUIを作ることやそのためのデザイン方針について考えを巡らせる必要があります。

前回は、このUIに慣れてもらうためのデザイン方針の1つとして、「寛容さ」を提案しました。

目次

4. 世界で最も使われているカラシニコフの話5. カラシニコフの教訓

世界で最も使われているカラシニコフの話

ここでひとつ、ユーザーの間違いやコンテクストに寛容だったことで大成功しているプロダクトの例を挙げましょう。

世界で最も利用者の多い銃のひとつに、「カラシニコフ」という銃があります。正式名称「AK-47」という、とても有名な銃です。

この銃が世界中に拡散したのには、明確な理由がありました。

それは、保守・管理性がよく、トラブルが起きづらい、多少手荒に扱っても大丈夫、寒冷地でも熱帯地でも問題なく撃てるという素晴らしいパフォーマンスを持っていることです。

ピンと来ないかもしれませんが、これは実はとても凄いことでした。

カラシニコフ以前の(今もそうかもしれませんが)銃の構造は、基本的に出来るだけ「トラブルが起こらない」ようにする思想で作られています。

ここで言うトラブルとは、具体的には弾づまりです。

弾が銃の中で引っかかり撃てなくなってしまう、比較的よくあるトラブルなのですが、ほとんどの銃はこれを起こさないよう、銃の構造の隙間を出来るだけ無くす方針でデザインされていました。

精巧な多くの部品を作り、無駄なく、隙間なく部品を敷き詰めたのです。

何故かというと、弾づまりの主な原因が銃の中に残る弾のカスだからです。隙間を無くすことによって、カスが銃の隙間に入り込むことを防ごうとしたわけですね。

しかし、銃が使われる環境は様々です。
寒い場所、暑い場所、雨の中、粉塵の中、海の上...。

どれだけ隙間を埋めても、環境によって材質が変質したり、手荒な扱いを受けて部品がズレたり破損したりします。デザイナーがコントロールできないこうした事象によって、少なくない頻度でトラブルに見舞われます。

一方、カラシニコフのデザインは画期的でした。

中身がかなりスカスカなのです。
部品と部品の間には大きな隙間があり、一見不安定なほどです。

しかし、この余裕がユーザーのあらゆるコンテキストを吸収する緩衝材として働きます。

多少材質が変化しても他の部品にほとんど影響せず、手荒な扱いを受けてズレが生じても元々ある隙間がそれを許容してくれます。

弾のカスは銃の内部機構のあちこちに入り込みますが、どこも隙間だらけなので動き回ることができ、詰まることがありません。

また、部品数も少なく単純な構造なため、整備性にも優れています。仮に破損してしまっても、真っ二つになったり折れ曲がったりしていない限り元通りにすることが出来ます。

最初のAKが生まれたのは1949年ですが、同シリーズの銃は未だに現役で動いています。とても長持ちですよね。

これらの特徴への信頼により、ユーザーはカラシニコフをトラブルの無い銃、あるいはトラブルが起きても問題無い銃として扱っています。

なので特に大事に扱われたりはしません。普通に積み重ねられたり放り投げられたり土の中に隠されたりします。

もちろん、実際には銃の中でトラブルが起こりまくっています。放り投げるのも埋めるのも、銃の扱い方としては間違いです。

でも、AKはそれらユーザーの行動やコンテクストに寛容です。大体どんな時でも撃てるし、ちょっと整備すれば元に戻るのです。

壊れる心配や戦えなくなる心配が極めて小さい(=トライアンドエラーにかかるコストが極限まで小さい)ので、AKは訓練でも実践でも、誰でもトライアンドエラーを重ねられます。

そして度重なるトライアンドエラーによってユーザーはAKに慣れていきます。

AKはこうしたユーザーやコンテキストに寛容であるという特徴を以て、ユーザーの慣れと信頼を得て世界中に広まっていきました(今では非正規の取引で広まっていくことの方が多いようですが...)。※1

カラシニコフの教訓

以上のカラシニコフの事例から得られる教訓は次の2つです。

1. ユーザーのコンテクストや間違いに寛容であることがプロダクトへの信頼を生む(逆に言うと、特定のコンテクストでしか使えない・間違いを取り戻せない=綿密過ぎる設計のプロダクトは信頼を得られない)

2. 信頼はユーザーのトライアンドエラーの回数を増幅する

この2つから、前回示した次の仮説的法則に当てはまっていることが分かります。

トライしやすいことは試行回数の多さに繋がり、試行回数の多さは憶えやすさとなり、憶えやすさは試行回数を更に増やし、多くの試行回数が慣れへと繋がっていきます。

大まかなデザイン方針

さて、それではこの事例と教訓を頭に置きつつ、デザインの話に戻りましょう。

つづき>>
「実践編 デザイン原則をつくってみる」
(申し訳ないことに、決めていた目標PV・Likeに到達しなかったので、つづきはしばらく書きかけで眠ったままになりそうです)

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※1
カラシニコフについてより詳細を知りたい方には、
カラシニコフ Ⅰ」「カラシニコフ Ⅱ」の2冊がオススメです。

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