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考えない日記:【写真部】 木々と1000m
シンボルツリーというものがある。おうちの庭や公園などにその場所を名指す目印として植えられた木。「〇〇さんの門柱の木、素敵ですね」などと言われる木。
しかし、それとは別に個々の印象に刻まれる木々や植物というものも自然の中には存在する。誰かが見せようという意志をもって植えたわけでもないのに、なぜがそこを通るたびに目にとまる、印象に残る木がある。
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初夏の生い茂った草が視界を狭めたその先に、半ば朽ちながら一部は立派に新緑を生やしている木が現れた。自分のものではないツタを抱え、隣の木々ともたれあいながら生きている。「人」という漢字が浮かぶような姿。
星野道夫さんの著書に、アラスカの森に育った木が何世代も経て、やがて川辺へ到達し、朽ちて倒れる場面を綴った箇所がある。その倒木はやがて川に流れ、鳥の休息所になり、別の生命が育まれると。
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最近読んでいるレヴィ・ストロース著『悲しき熱帯』(川田順造訳 中央公論社)にリオ・デ・ジャネイロにふれた部分がある。
”何と言ったらよいだろうか。リオの景観は、私には、自分の寸法に合っていないように見える。”(p.121)
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自分の寸法が狂うということが旅にはある。
先日、友人のYさんの家を訪れた。Yさんの家は八ヶ岳南麓にあるのだけれど、そこは標高1000mの場所。確かに車で到着すると途中で耳に違和感はあるものの、海の町からはなだらかに登っていくわけで、そこまで辺鄙な場所に辿り着いたという感慨はない。
しかし、背景にそびえる八ヶ岳の迫力や遠くに見える甲斐駒ヶ岳は、三浦半島から訪ねた身には、ある種異様な感嘆を持って迫り来る。
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Yさんは1000mの所にいるという想像が三浦半島へ帰着すると、ほとんど幻想的にすら思える。
普段は海抜1mからせいぜい数十mのところで生活している。Yさんはその上空1000mにポッカリと浮き、こちらを見下ろしている。「おーい」といっても聞こえない。
あるいは、Yさんは海岸に立っている。我々は水の底1000mの海底で、にょもにょもと生活している。Yさんが艀を渡した岸壁から海面を覗き込む。
海底1000mのところで湯を沸かし、茶を淹れ、布団を畳む。
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1000mという違いは、そこへのなだらかな到着という行程が存在しなければ、もうほとんど別の生き物が暮らす幻想世界だ。
*写真は全て三浦半島です。
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おまけ
三浦の森の音を録音しました