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#10『すべて忘れてしまうから』感想


今回ご紹介するのは、燃え殻(もえがら)先生の『すべて忘れてしまうから』という作品です。

昨日までずっと『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』の感想を投稿していたのですが、なんと8つの感想を書いている最中に、もう一冊読み終わってしまうということが発生致しまして、このような読書感想の連続投稿になっております。

*以下ネタバレを含みますのでご注意ください*


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○あらすじ

いまはない喫茶店、帰りがけの駅のホーム、予定のなかったクリスマスイブ、居場所のないパーティー会場―ふとした瞬間に訪れる、二度と戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる「断片的回顧録」。

あなたにもきっと、忘れている記憶がある。

*一部引用


○装丁について

装画は『おしゃれ手帖』『ギャラクシー銀座』『クリームソーダシティ』などで知られる漫画家、長尾謙一郎。


なんだか不思議なジャケットで目を惹かれてしまったんですよね。

紺色と黄色で印象が強かったこともありますが、なんといっても独特なイラストのタッチが気になりました。

普段はもっとなんていうか、キラキラした美しいジャケットのものに惹かれることが多いんですけど、本作のような独特なイラストにも強いものを感じますね。

なんだか新たな世界に足を踏み入れた気分です。


○感想

(読み終わってすぐに書いているので文体が格好つけてますが気にしないでください。笑)


我々には脳がある。記憶がある。

しかしそれは時が経つと忘れてしまう。

これは作者が自らの人生の断片を綴った、そんなお話。



他人の記憶の破片を見ているようだ。

いや、実際そうなのだけれども、なんだかそれは自分の記憶でもあるのではないかと思えるほどリアルだった。


誰かに話すほどのことでもない。
我々の人生にはそんなことが沢山ある。
むしろ我々の人生の大半は、そんなことでできている。




小説家を甘く見ているわけではない。
でも、私でも、あなたでも、この作品に近いものは書けるかもしれない


いや、書けるに違いない。



だって我々には記憶がある。


この作品は、我々の脳が一旦保存している

"誰かに話すほどのことでもないこと"

の引き出しを引っ張り出して中身を並べたような作品だから。


私にも、あなたにも、こんな体験は必ずある。




私も、この作品を読み終わってすぐにこの感想を書き出した。


冒険譚を読んだわけではない。感動的なラブストーリーを読んだわけではない。


しかしなんとも言えないこの感情を、この気持ちを、書き留めたいと思ったからだ。


私の脳ではこの思いを鮮明に記憶することは出来ないと思ったからだ。




今は「中々面白かった」と思っている。


でも、この気持ちもいつか消えるのかもしれない。もしかすると、この本を読んだことすら私の人生から消えていくのかもしれない。


我々は、良いことも、悪いことも、人も、自分の経験でさえも、いつの日かは



すべて忘れてしまうから


○最後に

今までに読んだことの無いタイプの、不思議な作品でした。
これまではほとんどがストーリーもので、本作のような短編集みたいなのはあまり読んでませんでしたので、本作を読んでいていつもと違う感じでとても楽しかったです。


我々の記憶の奥底にある、自分自身すらも忘れかけている記憶。

たまに意識して見つけてあげると、そこには懐かしの顔や場所が浮かぶものです。

皆さんも、自分が忘れかけていた自分の記憶を探してみてください。



○著者について

・燃え殻 (モエガラ)
1973年生まれ。都内の美術制作会社に勤務する会社員でありながら、作家、コラムニストとして活躍。ウェブサイト『cakes』で連載した初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が2017年に新潮社より書籍化され、ベストセラーに。


ここまで読んでいただきありがとうございました!


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