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朝の色

 目が覚めて窓のそとをみる。晴れともくもりともはっきりしない天気で、空気じたいが青みがかっているような、水のなかに生まれたような光景だった。わたしの窓からは、ときどきよい光の当たりかたをするビルがみえる。おきにいりのビルだ。あるひとつの角に光があつまって、とてもにぶく、じわりと光る。そういう種類のビルだ。今朝は光っていなかったな。だけど、わたしはそれがうれしかった。うすいうすい群青色の空気に、その謙虚さがすこし、溶けこんでいるような気がしたから。

 豆をいつもより丁寧にひいて、はかりと温度計をにらみながら、コーヒーをつくった。おいしいコーヒーだった。しみついた癖や習慣のなかにあって、つとめて、なにかを思い出したり、かんがえたりしないで、味だけに集中するというのは、ある種のおかしさがあるね。

 ふと窓のそとに目をやると、もうあの色はどこかへ流れてしまっていた。あたたかく、エネルギーにあふれた日差しが一日を支配していた。信号待ちをしている車たちなんて、きらきら光っていた。気持ちのいい朝だ、とわたしは思った。さみしいきもちだけがあとに残った。あのうすいうすい群青色の空気は、二度と戻らない。あとにも残らない。いまこれを書いている瞬間でさえ、もうあの光景を正確に思い出せないのだから。

 さみしいきもちと、気持ちのいい朝だけが、ことしもつづくといいな、と思っている。わたしの大切なひとたちにとっても、そうであってほしい。

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