【ゲーマー英会話】台パンって行為じゃなく、概念なんだ
インターネットスラングとして、「台パン」という言葉がありますね。
(怒り狂って)「台をパンチする」から「台パン」。
昔は主にゲーセン界隈、パチスロ業界で使われていた言葉のイメージですが、初出はどちらなんでしょう。台パン学に精通しておられるかた、お便りください。
先日わたしは、英語圏で「台パン」に相当する対訳がないのではないか、という世紀の大発見をしました。
たとえば、こんな日本語を英語にしてみましょう。
「台パン」にあたる部分は"smash your setup"。"smash"は「殴る」とか「たたく、ぶつける」といったニュアンスの言葉で、"setup"はPC周りの「環境」、つまり机や椅子、キーボード、ゲームのコントローラ等を総合したものです。
動画配信等がメインストリームとなったいま、われわれは家にいながらにして台パンを目撃し、認識し、ひいては遂行することができるようになりました。ゲーセンやパチンコ屋で見かける、怖いお兄さんや、目の虚ろな無精ひげのおじさんの台パン以外が、現代社会にはあふれている。
あなたは机を叩いてもいいし、ピンクのうさぎのぬいぐるみを殴ってもいい。いい時代になったもんです。
なにが言いたいのかというと、われわれはもう、「台をパンチする」ことを「台パン」と呼んでいないのです。
つまり、現代のインターネット住民たるわれわれは、「台パン」という言葉を耳にするとき、いわゆる「モノにあたる」という行為をぼんやりと思い浮かべる、といえるでしょう。
英語でこのイメージを言葉にするとき意識したいのは、対象と行為をなるべく明確に示す、ということです。
机を叩くのか、殴るのか、
キーボードを持ち上げて叩きつけるのか、
あるいは「台パンはもうしない」と誓ったあの日から、心を入れ替えて大切にしてきたうさちゃんのおなかを、おまえはまた殴ってしまうのか――
顔はかわいそうだから――
さて、明確に示す、という部分を意識して、なにか違う例文を考えてみましょう。
さきほどの"smash"と違い"slap"という言葉を使いました。「はたく」とか「ビンタ」のイメージです。アンダーハンドで振りかぶってばちーん。そうすると、ひじかけ部分が「びゅーんと飛んで行ってしまう」(flew off)。そういう光景です。
ただし、必ずしもこんなルーニー・トゥーンズみたいなシーンだったかどうか、確定できない場合も多いですよね。
そういうときに便利なのは、やっぱり先に挙げた"smash"という行為をあらわす言葉。
「台パン」をふわっと表したいとき、いちばんよくありそうな最大公約数的表現は"smash one's setup"といっていいでしょう。
("one's"の部分を"my"とか"your"とか"his/her"とかに"setup"の部分を"controller"とか"wall"とかに置き換えよう!)
ある感情や行為をなるべく抽象化する、という作業は、たしかにあらゆるコミュニケーションにおいて必要だし、その本質だといえるかもしれません。そのために言葉が存在する、といってもいいかもしれない。
そのような意味で、「台パン」という言葉は成熟した言葉といえます。
だけど、受け手側はその抽象化された言葉をリバースエンジニアリング的解釈でもって、捉える必要があるのです。これは受け手の責任ともいえるし、醍醐味でもあるといえる。
この意味上において、お互いがすこしだけリッチな体験をしたい、と思うならば、われわれは発信者としても受信者としても、抽象化された概念を再度すこしだけ具現化して、その不確かなバランスを楽しむこころをもってもいいはずなのです。
現代社会においては、まったくの無駄とされるところではあるけれど。
「台パン」ってどこまでが「台パン」なの?って考えるのも、また楽しいとわたしは思います。でも、たしかに、見ず知らずの他人とそんなことするの、めんどくさいよね。喧嘩もしたくないし。
ということで、「台パン」という行為をするの、もうやめましょう。めんどくさいから。
かわりに、「台パン」という概念について自分のなかで考えることで、怒りのエネルギーを発散するようにすれば、世界はすこしだけ平和になるかもしれない。たぶん、ならないのだけど。
"この道を進むのみ!"
◇ ◇ ◇
そんなことを考えながら、こちらの動画に字幕をつけさせてもらいました。
「台パン」の話もすこし出てきますので、どんな訳になっているか、気になる奇人たちはみてみてね。
このにゃじさんという投稿者さんは、現代にこんな仏がいるのか?というくらい穏やかで誠実なかたなので、「台パン」の「場違い感」が面白い表現となっている動画でした。コントローラーのレビュー内容もわかりやすく、正直で心のこもった内容!
またね~~!