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嘘日記 2

 7月21日、晴れ。午前6時頃、起床。
 頃、というのはこの部屋に時間がわかるものがない故だ。
 薄く朝日が昇っている。虫の声がまだしない。以前からそのぐらいの時間には日常的に起きていた。これらのことから大体で6時だと決めた。
 1時間。目が覚めてから回収まですることがない。とりあえず布団からシーツを外し、畳んで部屋の隅にやる。7時になれば奥の房から回収のカゴが来たら担当の人に渡す。
 暇なので貸本を読む。しぐさについて書かれた民俗学の本。暇を潰す読書に物語は向いていないと思う。

 7時30分。食堂で朝食。コッペパンにマーガリンとジャムが一つずつ。紙パックの牛乳が一つ。隣の席の人が、同じ房の人と賭けかなにかでパンをちぎって渡していた。私は個室なのと、生来の性格もあって一人で黙って完食した。
 その後は取り調べ室に移動。私には面会の予定はないので昼食まで何もない。

 12時。食堂で昼食。お弁当屋さんから届くお弁当を食べる。これがとても冷たい。何かの本で読んだことがある、戦時中は捕虜にわざと冷たい食事を与えて活力を削ぎ反抗の意思を奪うという話を思い出した。
 それを先生に聞いてみると「それは多分お弁当屋さんが冷蔵で保存してるからであって、こちらで意図的に冷たくしてるわけじゃないよ」的なことを言っていた。

 13時頃。昼食が終わって、二人ずつ30分程度に外に出される。外と言っても十畳程度、マンションのベランダくらいの広さで公園の遊具みたいな鉄棒があるだけ。隅の日陰に座って暑さに耐えるくらいしかすることがない。
 知らない子が鉄棒にぶら下がったりするのを見ながら、汗と一緒に心が溶け出していくような想像をしていた。

 18時。夕食。事前に申請すれば個室等で好きなものが食べられるらしい。自弁品申請といって元々の所持金から支払われるらしいので、私には関係がなかった。

 20時。消灯。といっても巡視の為に明かりは点いたまま。必ず頭を布団から出して寝なければいけないので、私は眩しくて中々眠れない。
 足音一つ。遠くの誰かの啜り泣き一つで目が覚める。安心とはほど遠い心持ちのまま、眠ることを要求される。
 明日は裁判所に移送らしいので、寝不足の頭でいるわけにもいかない。そう考えて、本で読んだ認知シャッフルをしてみながら寝てみることした。

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