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#小説
54字の物語(17)『心残り』(ショートストーリー付き)
その日は、昼から小雨が降っていた。昼夜を問わず、人で溢れ返っているこの街。その中で一人、私が辿ってきた道のり。誰の記憶にも残らない、小さな蝋燭の灯火のような私の生涯。父の顔を知らずに育ち、男出入りの激しい母は、中学の卒業を待たずに家を出て行った。年をごまかし、夜の街で働いた。寂しくて、SNSで知り合った男の家を転々とした。暴力と虚構の中で生きるしかなかった。でも、これでやっと終わる。密かに心を寄せ
もっとみるtomoshibi《灯》
小さな飲み屋が軒を連ねる路地裏で、薄汚れたやや急な階段を降りると、古びたドアがあり、少し傾いた小さな札には、消えかかる文字で「灯」と書かれていた。店内は、カウンター6席とボックス席が1つ。薄暗い店内は、天井の数個のダウンライトだけで照らされていた。
開店も閉店も、店主の気分次第…。この店では、店主が出すウイスキーを、ただ味わうというのが暗黙の了解だった。様子を察して出されるウイスキーは、不思議と