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「グレーだなんて許すものか」という私に送るメッセージ

人間を白か黒か、2つに分けて考えるなんて難しい。必ずグレーの部分がある。それを許せるようになると楽になると思うよ…

最近よく言われる言葉だ。うーん、頭ではわかるのだ。頭では。いや、だって、普通に正しいじゃん。この言葉。

まず多種多様な人間を2分割するなんて無理じゃん。それは、ノンバイナリー・アセクシュアル・アロマンティックという不思議なセクシュアリティを持っている私が一番よくわかっているじゃないか。この人は100%こっちの性質、あっちの性質は0%!だなんて、そんな単純な話じゃない。わかっているのだ。

なのに、どこかで抵抗する声が聞こえるのだ。
「グレーだなんて許すものか」と。

グレーなんて許さないと泣き叫んでいるのは誰?何歳の時の私だろう。…ああ、制服を着ている。あのスカートにあの上着は、高校生の頃の私だ。

そうだ、そうだった。

高校の先生に何回も言われた。「あなたが何でそんなに辛いのか理解できない」と。

きっとそれが私の心にわだかまっているのだ。


高校の時、成績は学年トップだった。塾の自習室で腕を切り刻みながら覚えた数学の公式。成績が良くなければ自分に価値はないと胸に唱えながら覚えた世界史の年号。幾つのも自分を犠牲にしてとった成績だった。

きっと昔から心はボロボロだったのだ。しかし、まさか、成績が原因で辛さを理解してもらえないだなんて。「あなたは成績が良いのに何を悩んでいるのか」と何度も聞かれた。

自分でもわからなかった。何がそんなに辛いのか。しかし、自分が辛いことを理解してもらうためには、「客観的に見て誰もが納得できる証拠」が必要なのである。それはわかった。

だから、考えた。いろんな説得の仕方。いろんな表現の仕方。
そして、きっと、だから、思い出してしまったのだ。解離で私が無意識に隠していた記憶。それは、母からの暴力。記憶を思い出したことは、私にとっては僥倖だった。だって、これって、「客観的に見て誰もが納得できる証拠」そのものじゃないか。


グレーが許せないのは高校生の時の私だ。

母は苛烈な人だった。叩かれた。蹴られた。死ねと言われ、罵られた。酒を飲むと別人のようだった。
母は愛情深かった。抱きしめてくれた。頑張ったときには私の好きな料理を作ってくれた。私を心配してくれた。

どっちも、私の母だ。それが「グレーである」ということだ。

それが高校生の私に許せるはずがない。だって、怖いのだ。愛情深い母の一面を高校の先生に知られたら、「ほら、あなた幸せじゃない。何をわがまま言ってるんだか」とでも言われてしまいそうだから。今まで苦しんできた自分、今苦しんでいる自分を再び否定されてしまう気がしてならないから。

きっと、だから許せないのだ。グレーという状態が。

もう二度と自分の苦しみを否定されたくないのだ。

神に問う。この感情は、罪なりや?

自に問う。この感情は、罪なりや?


高校生の時の私へ。今の私から、ちょっとだけ話をさせてください。

高校生の私は、苦しみは今がピークだと思っているはずです。大人の私はカッコいい、立派な人間になっているとも。でもね、ごめんね、高校生の時よりも、もっと、ずっと、ボロボロなのです。泥水啜っている…とは言わないけれど、雨水ぐらいは毎日啜っている気分です。

だけどね、高校を卒業してからいろんな人に出会いました。それは、私にとって人生の宝物です。例えば、この文章を書くきっかけになった看護師さんの話をするね。彼女は「私おしゃべりすきなんだ」と会うたびに私に声をかけてくれます(いつも内心ちょっとワクワクしています)。彼女は、私の気持ちを否定しません。親が好きな私の気持ちはもちろん、親を怖いと思う気持ちも、憎む気持ちも絶対に否定しません。私は嬉しいのです。私を気にかけてくれて、否定しない人がいてくれることが。それは、きっと、高校生の時のあなたが一番求めていたこと。そして、手に入らなかったこと。

大丈夫。数年越しだったけど、ちゃんと出会えたよ。あなたの出会いたかった人に。

大学受験前日に自殺しようとしたあなたは、何を思ったかふらふらと家に帰り、結局死にませんでした。死なずにいてくれてありがとう。

母を許せる日は来ないと思います。だけど、母への感謝も忘れないと思います。でもね、それは、苦しんで悶えて泣いていたあなたを否定したいわけじゃないんだよ。

もう私の周りには、あなたの苦しみを否定してくる人はいません。だって、今の私には行動する足と、自分の気持ちを言葉にする頭を持っているから。だから、自分の周りにいる人は自分で選べるの。だから、私は、高校を卒業して、世界が広がって、優しい人たちとたくさん出会いました。

だから、大丈夫。グレーでも、大丈夫。

そういえば「回復するには、一度被害者になり切らなきゃいけない」という言葉がありますね。知ってるでしょう?その時は、あなたの怒りのパワー、嘆きの感情を借りさせていただきます。そして、今の私が元気になったら、かならず、高校生のあなたを助けに行きます。

大丈夫。大丈夫だよ。

もう、グレーでも、大丈夫なんだよ。



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