記憶の破片ひとつひとつ
描写が生々しいです。読まない方がいいです。
半螺旋状の階段を見上げる。
足先が見えた。
膝が見えた。
変わり果てた夫の姿。
何かを叫ぶ私。
階段を駆け上がり、夫の脇を支えて重力が首にかからないように抱え込む。
身体が冷たい。
包丁を取りに行く。
夫を抱えこみながら黒のロープを切る。
一気に私の腕に夫の体重がかかる。
スピーカーにして繋げていた携帯の向こうから、母と妹が何か呼びかけているが分からない。
いつまでそうしていたか分からない。
知らないうちに救急車とパトカーがきていた。
夫の身体を一緒に支えていた人に「抱えないと!首が!」とかなんとか叫んでいた気がする。
引き剥がされて、夫の身体が遠くなる。
しばらく動けなかったような気がするが、寒いからかも、と毛布を持って夫に掛け、身体をさする。
知らないうちに、妹と義姉がいた。
「ねぇちゃん!」
何か泣き叫んでいる私を妹が抱きしめていた。
記憶が途切れる。
警察官に手渡されたのは、鯉のぼりで使っていたロープ。
妹が処分するよう依頼していた。
あれから鯉のぼりが飾れない。
階段をのぼるのが怖い。
記憶の破片はバラバラになっていて、でもひとつひとつ全部が、私にとっては失くしてはならないもの。
たとえヒトに不要と言われようと。
夫が生た証でもあるものだから。
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