かたちーまる編
四角い窓や三角屋根。
建築物の絵を落書きするとき、無意識にも直線の組み合わせで描く癖がいつの間にかついている。
だからか、建築に現れる“まるい形”に何か特別なものを感じてしまう。
特に、この建築の“まる”へのこだわりはすごい。
例えば、窓。
角を丸めた窓。ここでは、さらに外側にコンクリート製の丸い装飾が施されている。
そして丸い照明。
壁パネルの装飾。
ショーウインドウの角にも“まる”。
他にもいろんなところに大小様々な“まる”がある。
ディズニーランドの隠れミッキーみたいで何だかワクワクしてくる。
でも一体なぜ、“まる”を追求しているのだろうか?
「まる文字」「まるい味」「まるい雰囲気」など“まる”が表現する言葉は様々に存在するが、”まる”という言葉には“柔らかさ”や“優しさ”というニュアンスが含まれている。
この建築は、直線による整然とした美しさよりも、“まる”による優しい何かを表現したかったのかもしれない。
この“まる”建築は、老舗菓子店「菓舗・讃岐屋」。
江戸時代初期から今まで、ずっとこの場所でお菓子を作り続けている。江戸から令和へと時代が変化する中で、甘い幸せがいつも生まれる場所。現在の建築は昭和中期に建てられた2代目で、当時は相当ハイカラなものだっただろう。
そうか!この建築の“まる”はお菓子が生み出す“優しさ”の表現なのか。
“まる”くて優しいけれど、それにこだわり尽くしているその様は、“まる”で職人のお菓子へのこだわりのよう。
「こだわり」は直線的で堅い印象を持ちがちかもしれないが、徹底的に“柔らかさ”にこだわることで醸し出された空気感は、5つの時代を経てもなお変わらずそこにあった。
**菓舗・讃岐屋
住所:熊本県宇土市新町1丁目81
営業時間:9:30~18:30
(1/1~1/3のみ店休)
オンラインストア:https://kahosanukiya.net
現在は和菓子一筋の讃岐屋だが実は昭和の中ごろには洋菓子も扱っていた。
店内は今よりも広く、あの“まる”いショーウインドウや照明も昔は店内のインテリア装飾だったという。時代の変遷とともに、もう一度和菓子一筋に立ち返り、店舗面積を減らしたことで、インテリアが外装へと役割を変えた。その偶然によって、いままで内側に隠れていた“まる”が外側に現れ、まるで“こだわり”への決意を新たにしたように感じられる。
ちなみにお店のロゴも“まる”。
ネーブルオレンジの風味が爽やかな“まる”ぼうろはとても美味しかった。