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半島の建築 | 境界の設計

2023年10月に長男が誕生しました。

現在は生まれてから1ヶ月少々で、妻は福山市に里帰りしているため、週末に僕も福山市まで車で会いに行っています。

子どものミルクやおむつ交換、沐浴などできる限りのことは行っていますが、妻が岡山に戻ってきてから子育てが本当に大変になりそうです。


さて、ここからが今回の内容ですが、上記の都合で福山市に頻繁に行くようになり、福山市周辺を調べていたところ、妻の実家の近くに面白い建築があることを知りました。

©️福山観光コンベンション協会

阿伏兎観音(あぶとかんのん)という日本建築で福山市南部の沼隈半島南端の阿伏兎岬の突端に建てられています。

朱塗りの観音堂は国の重要文化財に指定され、建坪を崖の岩肌すれすれまで取って縁を軒よりも張り出させています。

建物の基礎をよく見ると平坦ではない崖の上に石を積みその上に建築していますね。

この観音堂は985年に航海の安全を祈願したのが始まりとされ、現在の建築は1570年に戦国武将である毛利輝元が建立したものです。

歌川広重の浮世絵や川瀬巴水の風景版画など、絵画の題材に多く取り上げられる、自然と一体となった建築です。

©️福山観光コンベンション協会

子授けや安産祈願の祈願所としても信仰され、妻の実家でもしばしばお参りに行くそうなのですが、ここまで特殊な立地に建つ魅力的な建築が存在しているとは想像できませんでした。

せっかく福山市まで通っていてこんなに素晴らしい建築があるのですから、ぜひ近々建物を見に行ってみたいと思います。

©️福山観光コンベンション協会

ちなみに、この阿伏兎観音を初めて写真で見た時、イタリアにあるマラパルテ邸を思い出しました。

マラパルテ邸はイタリア南部のカプリ島の東端のマッスーロ岬に建つ建築で、こちらも断崖絶壁の上に建物が建築されています。

©️Cornelli2010 CC BY-NC 2.0

こちらの設計者については諸説あるようですが、ジャーナリストであったクルツィオ・マラパルテのための別荘として建てられた建築です。

赤い組積造の外観で、建物の屋上に向かって幅の広い階段が続いています。断崖は海から32mもの高さがあり、眼前のサレルノ湾を見渡す事が可能で、広場からの眺めは素晴らしいです。建物へは陸と海からそれぞれアプローチできるようになっています。

阿伏兎観音もマラパルテ邸も海風や岩肌の地盤といった厳しい自然環境の条件の上に建築され、また常にその環境に晒されている訳ですが、自然と人工物である建築が見事に調和しています。

また、これらは海に突き出た半島という立地の特性上、陸と海の境界線上に位置する建築で、この立地そのものが何よりの魅力となっています。


場所や空間にはそれらに隣り合うものとの境界が存在し、僕の設計では境界にどのような関係性を持たせるかということを吟味し、特に力を注いでいます。

最後に、2022年に僕が設計させて頂いた住宅の写真を掲載させて頂き、終わりにしたいと思います。

こちらの住宅の敷地は人が暮らす場所と自然が豊かな場所との境界に位置していましたが、建築と敷地の関係性を吟味して設計を行いました。豊かな自然を享受しながら生活を営むことができます。

緑景へ続く家 | 2022
緑景へ続く家 | 2022


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