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「あとがき」付きまとめ vol.1

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本編は無料で読めます。「あとがき」のみ有料領域。一度購入いただくとこのマガジンに収録・追加されるすべての「あとがき」を読むことができます。 最大30作品収録予定。更新不定期。  …
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#シロクマ文芸部

例えばソフトクリームのように -1-

(本文:約2700文字) 「平和とは、ソフトクリームなんだ」 甘く冷たい白い渦巻きに嬉しそうに齧り付きながら友人は言った。ここのソフトクリームは濃厚というよりは軽い食感でコーンも固いものではなく最中に近い方。昭和懐かしいところが彼女のお気に入りだ。 「ランチにソフトクリームを食べられる世の中って平和だなってこと?」 私なりに解釈してみた。彼女は健康そっちのけで昼食の代わりに甘いものを食べる時がある。曰く、心の健康が優先なんだそうだ。 「ん~~ちょっと違う。ソフトクリーム

例えばソフトクリームのように -2-

(本文:約1500文字) 「文芸部というのは、取材ってかっこいい名前の旅行をするもんなんだ。まぁ、ファンタジー、異世界ものは取材なんてしなくても・・・」 駅のホームに現れた彼女は「やっほ」と短い挨拶に続けて文芸部について忙しく語りはじめた。理屈っぽい説明に相槌を打ちながら、私は彼女の様子がいつもと変わらないことに胸を撫でおろす。 「それで、取材して何か書くの?」 「ん~文章にするかどうかは、取材してからかな」 お説ごもっとも。ただ彼女も私も過去に文芸部だったことはない。

街クジラの歌【シロクマ文芸部】

「街クジラだ」 ひとりごとが声に出てしまう。同じ曲ではないが確かに街クジラだった。 ほとんどの田舎がそうであるように、私の故郷でも夕方になると音楽が流れた。ただ水曜日だけが違う曲で、私はそれを「街クジラの歌」と呼んでいた。私だけの勝手な呼び名だったけれど、他に形容のしようが無い。静かな海のリズムを思わせる和音にのせて、高音の旋律が長く伸やかに上下する。まるで本物のクジラの鳴き声のように。 街クジラが歌うのは日没時。西の空にはまだ赤が残り、東には濃紺の星空、そしてその間を移