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詩・散文詩の倉庫02
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#夜

賛歌

賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力   ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の    亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―—  ああ この皮膚がすべて剥がされても     感じているか?  動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる   おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも   聴こえているか?    無限に遠く 無限に近い   闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の

ストラングルホールド《Dream Diary 番外02》

xxxx年xx月xx日(x)  ぬらぬらぬらぬらと      黒光りする夜がまたやって来る    節操のない総天然色を肉の奥に密閉して     夜の重力はすべての脈菅に流れ込み   全身の毛穴に銀色のさぶいぼーを沸き立たせる  ノノノ、ノ、ノイズの岩塊だらけの重低音で     薄ら笑うあいつがまたやって来る    眠れぬ夜の海底の寝床の       絡み付く紅藻類に俺を羽がい絞めさせ   真っ黒いトグロを巻いて俺をじっと睨め付けるるるるるる                

インソムニア

漆黒の空の下 パーマネントグリーンに輝く草原で 千人の私が牧草を食んでいます すぐに千と一人になりました 次は私が千と二人になり 次は私が千と三人に 次は私が千と四人 私が千と五人‥ 私が千と‥ 私が千‥ 私が‥ 私‥ ‥ ‥ 数日後の午前中 私のクリニックのクライエント羊が 両眼の下にどす黒い隈を作って ヨタつきながらやって来ました   充血した眼で私を見るなり 「ああ‥‥あなたが九十九万九千九百九十九人」   私を数えてバッタリ倒れると 四つ足万歳のヘソ天姿勢で 深い眠

八月

 1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。               2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の

地の星

影は次々と 落ちてきて 重なって 離れて あおい時間も ふじいろの空間も あなたの指で 押し広げられて そんなふうにして 世界はできあがり あなたが残した 古い写真の 風景のように どこか遠いところで うすく結像する 地平線の向こうに 昇ってゆく 痩せた月まで 湾曲しながら 続く舗道を 一歩 また一歩と 踏みしめながら 吐く息は 白い ぼくの声は どこまで届くのだろう ぼくの声は すぐに消えるのだろう そして遠い未来に 知らない惑星の上で 息を吹き返し 空想画の岩山に ぶ

遠く暗い街

 1   目を瞑って 灰の砂漠を 食べていると  こころは 徐々に ひからびて  ちっぽけな 雲塊になって  コトコト笑う 鳥の頭蓋に 埋め込まれる    鳥のくさめ いや、 くしゃみで ポスンと 吐き出された こころは 夜露を吸うと ジュワッと 膨らんで 星雲になり スピンを 始めるけれど 暗黒エネルギーの 不足により 失速しちゃって 淋しい鉱石が 身を寄せ合う  晶洞都市に きり揉みしながら 墜ちてゆく   なし崩し的に 錆びてゆく 時間が 散らばった こころと 散

世界の最果ての部屋で 無音のテレビが瞬いた   鬼が私を探しに来る 緋色に染まった夜の海から シルクの魚雷に跨って   幼子は母に抱かれて眠り 鳥は巣で寝返りを打つ

世界樹(Yggdrasill)

樹木には牙がある それは樹木に夜が言い寄ってくるからだ 夜の言葉は樹木に浸透し それゆえ樹木は夜に牙を立てる それは樹木が樹木自身に牙を立てることだ 夜は樹木に応えて血の言葉を吐いて言い寄り続ける 樹木は夜の血の言葉で充たされ 夜の血の言葉は樹木の中で樹液となり 緑色に発狂する 樹木と思考は共生している 樹木が枯れる時 我々は思考を消失させる この時 樹木は落葉の影から思考に向かって夜啼鳥を放つ 夜啼鳥は消えてゆく思考を惜しんで囀り 思考は消失しながら夜啼鳥の囀りを祝福し返

金属の目録

金属の目録に眼を通した あらゆる色彩がひび割れる時刻に 百万年かけて落下する思考の速度で   澱んだ大気の底に広がる地衣類のような 金属の結晶が犇めく都市の上空から 走査電子顕微鏡の稠密な眼差しが ヒトや建物や樹木や獣を舐め回している     無感動の水位が上昇してゆく   この世界が確実に一人ぼっちなのは   そのせいなのか   あなたはそれを彫金細工に仕立て上げ 賑やかな観光地の街頭で 晴れやかな顔をした人たちを相手に 僅かばかりの値段で売ろうというのだ     誰の所有