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日々に遅れて

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詩・散文詩の倉庫03
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#小学生

日々に遅れて

結局やって来なかった夏の記憶は、知らず知らずのうちにうす桃色の花の蕾に封じ込められる。名前を知らない花の開花を薄明のなかで反芻しようとしても、顔の無い夜の方にするすると逃げて行き、掴もうとする手はただ宙を泳ぐばかり。 早朝のごく限られた時間だけ朝日の射す場所でしか生きられない食虫植物のモウセンゴケは、密生する腺毛に朝露を付着させ、捕らえた光虫を小さな渦巻形に丸めてから、じんわりと消化してゆく。雫から弾け跳ぶ光の予感だけが私を生かしている。 やって来なかった? いや、気が付

なわ跳び

冬晴れの児童公園 野良猫が生垣から顔を出して じっとこちらを窺っている    /かけとび  あやとび/  /ステップとび   去年はできなくて癇癪を起こしていた ふふ、まあ頑張れよ と思っていたのに 今では二年生女子の中でも上手い方らしい    こうさとび/  /にじゅうとび  はやぶさ!/   なんとなく 本当になんとなく 焦ってくる中年後期の男 (ぼくができなくてもいい筈なのに‥‥)    /普通の/なわ跳びなら/  ぼくも/こないだから/やってるよ  /(フィットネスの

一輪車

七つになったあの娘が やっと乗れるようになった がんばった甲斐があったね 練習に付き合った私は思うのだ 中高年の足腰の衰え防止に 一輪車はいいんじゃないか 五月のゴールデンウィークに イオンで買ってやった一輪車 今度は独りで売り場へ行って 人目を気にしながら跨ってみる 乗れても自慢はやめとこう   おおっと 跨ることができない ペダルに足も掛けられない 絶対ひっくり転げて怪我をする ぽっこりお腹に良さそうなのに‥‥ 未練たっぷりで売り場を立ち去った そして 日々は過

しゅりけん

十二月の 日暮れ時の公園で きみが見せてくれたもの これは十字架? ううん 風ぐるま? ううん 何かの飾り? ううん じゃあいったい何?   あのね しゅりけん チラシを細く丸めた棒を二つ 十字形に組み合わせて セロテープをぐるぐる巻いて しっかりと固定している   大げさに叫んで逃げる ぼくの背中を狙って えいっ! きみは思いっ切り 自作のしゅりけんを投げ付ける   ピューッと高く飛び上がると あんまり回転せずに ひいらり ひらり とんでもない方向に落ちて行った   ぼ