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日々に遅れて

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詩・散文詩の倉庫03
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2022年5月の記事一覧

首長竜

子供の頃  ぼくは信じていた 何処か遠いところに  黒い湖があって そこには首長竜が棲んでいる   お父さん    黒い湖はどこにあるの? ぼくが尋ねても  お父さんは何も答えずに 毎日山へ働きに出て行った ぼくは地図帳を開いて 湖を見つけては黒く塗り潰した 奥深い霧に覆われた湖面から 首長竜が水飛沫を上げて首をもたげる そんな想像をして 夜になるとすぐに眠った 真夜中にふと目覚めると 窓から首長竜が覗いている なんだか寂しそうな眼をしていた   お父さん    ゆ

会社をたたむ

会社をたたむと決心して以来 もののたたみ方に注意するようになった これまで自分でたたまなかった布団を たたんでみたりするようになった いつもはそこら辺に放り投げている パンツや靴下もたたんでみた 風呂敷もたたんだし タオルやキャンプ用テントや 驚く女房のパンストまでたたんだ たたむのは案外簡単だと思った しかしあまり音がしなかったので 何とも言えず奇妙な感じがした お前はたたむものの気持は理解しているが たたまれるものの気持は分かっちゃいないと 私をなじるものがぼつぼつ出て来

遠雷

朝 目覚めたら 鳥の巣箱の中にいた 市会議員選挙の告示のニュースが 母屋の方から聴こえてくる 体を起こし 何となく上を向いて 首を伸ばしてお口をあんぐり 母がテントウムシを口移ししてきた ちょっと翅が硬かったけど 次のアカイエカは乙な味だった 市民の血が混じっているからよ あい変わらず場当たり的な行政だこと お昼過ぎまで世間話をしていたら 父がミミズを咥えて帰って来た 食べると沖積土壌の味がして 即効でドジョウになった 巣箱の穴からにょろりと出ると ケンタッキー草の叢にポトリ

朝 玄関のドアを開けて 階段を降りて行く セメント工場の方角から 何かの軋む音が 聴こえて来る 時間が並ぶ順番を 決めているのだ 一階に降りて 道路に出る 左足と 右足を 踏み出すたびに 敷石が現れて 歩道が出来ていく ヤマモモの並木も 生えてきた 斜め前を はや足で歩く 足首から膝までの ストッキングと 黒いパンプス だんだん胴体も現れて OLさんが 出来つつある ぼくもそろそろ 出来上がる 頃合いだ 斜め後方に走り去る 自動車の エンジン音 残響に

ミントの鉢

窓辺に置いた ミニ観葉植物 ポトス アレカヤシ パキラ ワイヤープラント ガジュマル そして ミントの鉢 みんなカタカナの 名前だから 誰もいなくなると 午後の浜辺で キラリと光る ガラス粒の話を カタカナで するらしいよ 自分は石英だと 思っていたら 実はガラス粒だった という話 これを教訓に それぞれわが身を 振り返ってみたら ポトスは実は アレカヤシ アレカヤシは実は パキラ パキラは実は ワイヤープラント ワイヤープラントは実は ガジュマル ガジュマルは実は ポトスだ