『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 ~追憶展~』を追憶する【広島・呉観光】
広島PARCOにて2024年7月12日(金)~8月5日(月)まで開催されていた『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 ~追憶展~』。
こんなに期待しかない売り文句も珍しい。しかも先行の池袋会場より広島会場は空いていて、本当に世界観に没入できそう。これは行くしかない!
というわけで、手持ちで一番性能がいいワイヤレスヘッドホンを握りしめて、夏の広島で一泊二日してきました。この記事ではその思い出を綴ります。広島の思い出を追憶展でサンドしたかったため、1日目にB(水木メインver.)で入村したのち広島観光し、2日目に呉観光してからA(鬼太郎の父メインver.)で再入村するプランです。(追加の巡回開催で追憶展に初めて行かれる方、音声ガイドを聞く順番はこちらをおすすめしたいです!)
1.純喫茶「ツバイG線」
水曜日の午後、新幹線で広島駅に到着。一刻も早く入村したい……! そんな気持ちを抑え、まずは昭和レトロで有名な純喫茶、「ツバイG線」で腹ごしらえ。なぜなら追憶展の広島会場は、遅い時間であればあるほど空いているとの前情報があったから。
全てのテーブルにあらかじめ灰皿が置かれてるんですよ。なんと全席喫煙可。これには愛煙家の水木もにっこり。リラックスできる雰囲気の良いお店でした。
2.『追憶展』1日目(水木メインver.)
さて、そろそろ空いてきたかな? と午後の広島PARCOへ。
会場名を聞いたときは「えっ? 昭和の父たちがそんな若者向けの商業施設で……?」と変に心配してしまったものですが、さすが令和に旋風を巻き起こしている父たち、広告も堂々たるものです。
そしてこれが「良い……」と評判のエレベーター……!
なるほどこれは……
良い……!
先ほどの広告をはじめ他にも同じビジュアルを使った掲示はいくつかあるのですが、なんかこのエレベーターの父たちは、存在感がリアルでとても良い。目線の低さ・箱の大きさ・金属の質感……いくつかの構成要素が生みだした奇跡。
電車の中吊りにそのまま使えそうなサイズの広告。広島の追憶展はいつでもこの恐ろしい広告とセットだったのかと思うとちょっとおもしろい。
6階でエレベーターを降りたらすぐ目の前に追憶展。当日券を購入したいので、案内に従って前売券を購入済みの方のうしろの列に並びます。遠方からの訪問だったので、もし移動のどこかで交通のダイヤに乱れがあったら……と考えると、日時指定がある前売券の購入はためらわれたんですよね。遅い時間は空いているとの情報は本当で、数人分しか並びませんでした。並んでいるうちからスマホとイヤホン・ヘッドホンを準備するよう指示があり、ひとりずつ順番に受付に行き、スマホでQRコードを読み込みます。音声ガイドのページをブラウザで開いて、ヘッドホンを装着したら準備完了です。複製原画の鬼太郎くんから直々に「警告はしましたよ……」を頂いたら、のれんをくぐり、いざ追憶展の世界へ!🎧
①プロローグ「あなたの案内役を仰せつかりました、帝国血液銀行の水木、と申します」
水木ver.の音声ガイドは1分前後のものが8本。まずは接待モードの水木から丁寧な応対を受けます。初めは「他の奴に頼んでくれないか?」とつれないことを言っていましたが(こちらではなく同僚か誰かに)、原稿を読むだけでいいからと頼み込まれて案内役を引き受けてくれたみたいです。いやあ、最高ですね。内心では面倒に思っているかもしれないのに、万事私にお任せくださいオーラ全開で丁重におもてなししてくれるんですよ。心のなかの昭和おじさんが「よ~し、ボク水木クンと契約しちゃうぞ☆」とご機嫌になってしまいます。
映画が「昭和三十一年」になったあの印象的な帝国血液銀行全景の美術資料を見て、「そうそう、映画館でこれを見た瞬間に『これはfor meだ』と直感したんだよ」と思い出したりしました。川沿いで貧しい暮らしをしている人がいる、というロケーションは監督・古賀豪さんからの依頼なんですよね(アニメージュ2024年3月号)。これは『ゲゲゲの謎』から外せない要素だと思います。この映画、美術がいい仕事してるんですよね。「そうそう、東京には水上生活者がいるとか、哭倉村には薪が積まれているとか、そういう描写に意味がちゃんとあるのがゲ謎の緻密なところなんだよ」と尊敬の念を新たにしました。バリアフリー上映の音声ガイドもそこを汲み取って描写していたと思います。広島での追憶展開催は、鳥取から一番近いPARCOが広島PARCOだったからという事情だろうと思いますが、『ゲゲゲの謎』って美術監督の市岡茉衣さんが広島県のご出身なんですよね(劇場パンフレット)。凱旋おめでとうございます🎉
②イントロ「安心してください、私がついていますから」
帝国血液銀行と同じセクションの夜行列車がイントロです。ここで音声ガイドの水木も鬼太郎の父とエンカウント。この時点でもう
の距離感なんですよね。それに父は「この会場で写真を撮りたくば……」と言い始めるし、この父たち、実際に追憶展の会場にいるテンションで会話をするんです。「いったいどの時間軸の父たちなんだ?」と想像を巡らせるのもまた一興。続くセクションは哭倉村の小道なのですが、ここでは音声ガイドはありません。
③龍賀家屋敷 大広間「こんなに豪華で広い大広間を見たことがありますか?」
一番最初のフォトスポット。撮影可の上座の反対側にも襖絵が何枚か再現されていて、本当に広い空間でした。虎の襖付近の籠のなかにはブラックライトが2本あり、襖絵を照らすと「隠れ妖怪」が現れるというお茶目な仕掛けも。大広間全体の美術資料も何点かあったのですが、映画で見たときは「狩野派の松→琳派の桜→奇想の龍」というような上座に向かって時代が下がる流れがあるように感じただけだったのに、いま全体図を見ると、「あれ、これって哭倉村の壮大なネタバレでは?」と思わずにはいられませんでした。見に行かれた方、桜の枝ぶりとか完全に血桜でしたよね?
なお水木から「もしよければ正面の座布団に座ってみてください」と促されますが、音声ガイド収録後に変更があったそうで、段にあがるのはご遠慮くださいとのことでした。
右奥には龍賀製薬社長・克典氏愛用の品の複製品のミニコーナーがあるのですが、水木が「あなたには見慣れないかもしれませんが」と言うのに心搔き乱されました。あれ、この水木、こちらが令和6年の人間だと認識してる? それとも「こんな豪華な品々は克典氏ほどの人物でもない限り滅多にお目にかかれませんが」をマイルドに言ってる??
④怪しい小部屋「あれ、原稿に何も書いてないぞ……?」
大広間の右壁ののれんをくぐったところにある時麿の部屋のことです。大広間が十帖だとしたら二帖くらいの小さな部屋ですが、情報量が多い!
作中で血まみれになった部屋だからなのか、血みどろシーンの複製原画が盛りだくさん。水木の回想シーンの服装の設定画もここでの展示です。画像は自衛隊新潟地方協力本部の広報資料館の展示パネルなのですが、こちらよりもっと細やかに情報が書きこまれていました。それなりに軍装には明るくなったつもりでいましたが、ゲートルの巻き方って平時と有事で違うんですね。『ゲゲゲの謎』のリサーチャー・望月清一郎さんによる徹底的な考証(アニメージュ2024年3月号)の一端を垣間見ることができます。
時麿の部屋なので、本が積まれて散乱している一角もあり、『柳田國男全集』がほとんどでたまに『万葉集』などがチラホラ、という感じで興味深かったです。大広間に展示してあった時麿の設定画には「時貞のスパルタ教育で人格が歪んでしまっている」とありました。果たしてどのような教育を詰め込まれたのやら……。あんなことをしでかしたキャラクターなので少し言いづらいのですが、私は時麿のこと結構気に入っています。
⑤座敷牢「家に牢屋があるなんて、奇妙ですよね」
ここのフォトスポット、みなさん写真を縦で撮影されているのが不思議だったんですが、左右に資料がたくさん展示してあるからだったんですね。水木からは「中からと外からとで、記念撮影をしてみてはいかがでしょうか」と促されますが、床には撮影位置を指定する貼紙がありました。意図せぬものが写り込まないようにという配慮でしょうか。座敷牢の再現展示は、東映太秦映画村のコラボイベントでもありました。
映画村の限定ボイスで「うん、この程度なら抜け出せそうだ」と明るく言っていた父、追憶展でも「客人よ、牢から出られなくなっても安心せよ。わしは出る術を知っておる」と親し気に耳打ちしてきます。うーん、この父、牢破りの才能がある。
座敷牢といえば水木の早食いシーンが印象的ですが、その絵コンテが必見でした。「若いころ飢餓を経験した水木の食事」「のんびり味わうことなく生きるために食う」。そうなんですよね、水木が出征した南方戦線は早くから飢餓との戦いだったんです。 回想シーンの水木って、浜辺で「死にたくない」と呟いていたのに、突撃時には「俺を殺せ」と叫ぶんですよね。あれは「(飢餓で)死にたくないから(銃)で俺を殺せ」という意味もあるのかもしれません。(↓の記事で自衛隊の史料館で見たことを書いています。)
⑥フォトブース「良い奴ですので、ご安心を」
いくつかの妖怪の資料とともに我らが釣瓶火さんがご登場。映画のなかでこのシーンが一番好き🥰
釣瓶火さんがイラストの姿でなんだか安心してしまいます。映画村の質量を持った姿には、なんとも貫禄があったので。
墓場で酒盛りをしている向かい側には、父が妻とクリームソーダを喫したあの屋上遊園地のテーブル席があります。
『ゲゲゲの謎』はこのあたりのシーンのつなぎ方も本当に巧みですよね。続くテラスでのアクションシーンでは長田がこれと似たような、ただし豪華なテーブルについています。屋上遊園地と展望テラス。奪われた者のささやかな日常と、奪った者の贅沢な暮らし。父が妻と暮らした慎ましやかな庭を見せてから、水木が手を洗う屋敷の豪華な庭を見せるのも同様の演出意図を感じます。こういう発見が無数にあるから何度も入村してしまうんですよね。
なお音声ガイドで父が「椅子にも座れるようになっておるのか!」とはしゃいでいるとおり、こちらは本当に座ってよいとのことでした。
⑦展望テラス「なんだか、とても嫌な雰囲気だ……」
太田晃博さんが原画と作画監督を務めたあの迫力のアクションシーン。その裏側がたっぷり公開されているセクションです。あのシーンがあるからゲ謎の締まるところが締まってる感じしますよね。ここの原撮映像は2024年11月17日発売予定の豪華版Blu-rayにも収録予定とのことで、今から楽しみです。
展望テラスに続く広いセクションでは左壁に血桜が妖しくも美しく輝き(プロジェクションマッピング的な)、右壁には病院や窖の資料がたくさんありました。鬼太郎の妻の設定画もここです。物語のクライマックスシーンの連続で、ひとつひとつの複製原画に胸がいっぱいになりました。音声ガイドはありません。追憶展の父たちの胸にも迫るものがあったのかもしれません。
特に半帖くらいの小部屋にあったこの結界はすごく良かった。映画でこれが登場して左目に鑓が刺さっているのを確認できたとき、思わず膝を打ったものです。時麿も丙江も庚子も乙米も左目を奪われる最期だったのは、おそらくこれが原因なのでしょうね。
⑧エピローグ「今度は、もっときちんとした案内人を呼びますので」
「そんな寂しいこと言わないでよ水木クゥン!」と心の中の昭和おじさんは泣いていますが、「またのお越しをお待ちしております」という水木の最後の言葉は本心であるはず。追憶展にまた足を運んでくださいというリピーター歓迎の意味だと思いますが、ゲ謎の世界はまだ終わらないよというメッセージにも受け取れてしまって嬉しい。
父たちに会うためにはまたゲ謎を見るしかない一時期がもう本当に寂しくて寂しくて……。「いいじゃないか! やらせとけ!」と劇場で何度水木を応援したかわかりません。この特典イラストの世界に行くためには一体どうすればよかったのでしょう?
でも、とにかく救いを残さず落としまくるようなこの感じは、脚本・吉野弘幸さんの狙いどおりなんですよね(アニメージュ2024年8月号)。だからこそ最後の鬼太郎の誕生シーンを、これのみが祝福であるかのように描けている。
ゲ謎ゲ謎とつい呼んでしまいますが、この映画の正式なタイトルは『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』です。この物語の父たちは『鬼太郎誕生』に向かって全力を尽くしていたわけです。全てを打ち負かすほどの圧倒的な力は持っていないけれど、未来に期待して懐柔を拒み立ち向かったのが父たちでした。結局、特典イラストの世界に行けなかった二人だから好きになってしまったってことです。「弱さ」がキーワードの父たちだから(劇場パンフレット)、幸せに過ごしてほしいと願ってしまうんです。逆説的でどうしようもない。
3.広島平和記念資料館
そんな気持ちがどこへ向かうかというと、現実世界の記憶を読んで、昭和31年頃の父たち(+鬼太郎)がどう過ごしたかをあれこれと想像するようになるんです。父たちはもちろんヒロシマも知っていたはず。2024年の人間が2013年を思い出す感覚で昭和20年を思い出せる父たち……。
慰霊碑を囲む池は昭和31年11月の大会を記念したもの。ゲ謎はエンディングでススキが揺れているので、あれも昭和31年秋の出来事なのだろうと思います。当時の白髪水木も関連記事を新聞で読んだかもしれません。
昭和30年8月に開館した資料館です。子どもの頃は被曝が怖いと思うばかりでしたが、大人になった今では投下決定に至るまでの経過に注目してしまいます。そちら側になってしまったのだなあと思うと、何とか出来そうでもあり、何も出来なそうでもあり。特に、開催中の企画展「ともだちの記憶」は、追憶展鑑賞後だと胸に沁みるものがありました。
水木を夜な夜な苦しめている戦争の記憶は死の恐怖だけではないと思うんですよね。夜行列車で父に言われたとおり、後ろに大勢憑いている。その正体のひとつはサバイバーズ・ギルトではないかとも思うんです。「なんでこんなに悲しいんだ……」という高度に文学的で美しいあのラストからも、それが少し感じられます。たしか鳥取のホテルで読んだ『わたしの日々』というエッセイ漫画のなかの言葉だったと思うのですが、「戦争では良い奴から先に死んでいく」とのお考え(ご経験)を水木しげる先生はお持ちだったようでした。
映画のキービジュアルの水木は血まみれですが、実は外傷もなければ敵の返り血も浴びていません。殺そうとしたり殺されかけたりして付いた血ではなく、怨念に精神が耐えられず吐血したり、ゲゲ郎の妻を救助しようとして浴びた血なんですよね。好戦的なように見えて実はそうではない。何に苦しみ、何のために行動するのか。監督が仰るとおり、「内面に弱さを抱える男が突っ張っている感じ」(劇場パンフレット)が谷田部透湖さんのキャラクターデザインにはよく表れていると思います。
4.ホテル川島
夜は広島駅直結のホテル川島さんにお世話になりました。せっかくだから昭和31年を感じたいけれど、客室が古すぎると心地良く宿泊できないかもしれない。そんな条件を加味しての選択です。ホテル川島さんは創業明治27年(1894)なので、昭和31年ももちろん広島で営業されていました。でも2016年に新築オープンしているためどこもかしこもピカピカ。老舗のホスピタリティを保ったまま設備は最新にアップデートされているという最高のホテルでした。
木曜日の朝、早起きして広島の美味しい朝ごはんを食べたら、電車で呉へ出発です!
5.大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)
広島平和記念資料館は日本が何を受動したかを伝える施設でしたが、大和ミュージアムはどちらかというと日本から何が出発したかを伝える施設だと思います。
「大和」は昭和17年に日本海軍連合艦隊の旗艦になり、司令長官の山本五十六さんが乗艦しました。山本さんは昭和18年2月に旗艦を「武蔵」に変更しますが、3月には「武蔵」を離れて前線のラバウルを訪問、4月18日にラバウルを出発したその日に戦死してしまいました。
この玉砕という言葉に「」がついているのには理由があります。山本さんの戦死が発表された5月21日から間もない5月30日、旧日本軍大本営はベーリング海アッツ島での日本軍守備隊全滅を「玉砕」であると発表しました。以後「玉砕」という言葉は全滅の言い換えに使われるようになりました。ゲ謎で水木の上官が「玉砕を発表してしまった以上、あの者たちが生きていてはマズい」と言っていたのはそういうことなんですよね。全滅していなければマズいから、全滅するまで意味のない突撃を繰り返させるのです。「あれから10年、せっかく拾った命だ」という水木の独白どおり、終戦があともう少し遅ければ水木は命を拾えなかったたかもしれません。大和ミュージアムには零戦の展示もありました。
一方で父は、孝三が禁域に入ったのが「10年ほど前」であることから、昭和31年になるまでの約10年以上、生き別れの妻を探して方々を尋ね歩いていたはずです。
その過程で街の復興をさまざまに目にしたかもしれません。それを踏まえて時弥くんに語った「せめぎ合い」の話を思い出すと、あれは「おためごかし」へのシビアなカウンターであるばかりではなく、父にとっては直近の、人間への実感が込められているのでしょう。
6.てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)
陸上にドーンと姿を現している実物の潜水艦がインパクト大なこちらの施設は、海上自衛隊の潜水艦と掃海艇の活躍を中心に紹介する史料館です。
掃海艇とは、海中の機雷を除去する小型艦艇のこと。『ゲゲゲの謎』と同じ2023年11月の公開で同じ時期に話題となった、映画『ゴジラ-1.0』にも登場しました。
海上自衛隊は昭和29年の発足。昭和30年に初めてアメリカ海軍と共同掃海訓練を行いました。昭和31年に帝国血液銀行で水木が社長に「やはり軍隊向けですか?」と発言したあのとき、頭に浮かんでいた軍隊とはどの国のどの組織だったのだろう。
「あきしお」とは、表で存在感を放っていたあの潜水艦の名前。1階のカフェで提供されているこのカレーは、実際に「あきしお」の中で食べていたカレーを再現したものだそうです。肉がハンバーグだったり、玉ねぎがドライだったりと、密閉空間で極力調理をしない工夫に感心しつつ、美味しくいただきました。
7.アレイからすこじま
まるで海上自衛隊呉基地のど真ん中に侵入してしまった気分になれる海沿いの小さな公園です。目と鼻の先に現役の潜水艦がいくつも浮上しているという、なんとも非現実的な場所でした。ここの所在地が呉市昭和町だったためちょっと寄ってみただけだったのですが、予想外に大迫力。酷暑のなかお勤めお疲れ様です。
8.入船山記念館
入船山地区は、戦時中の呉の暮らしを描いた漫画『この世界の片隅に』にて、すずさんと周作さんがデートの待ち合わせをした辺りだそうです。自然林の景観がそのまま残る気持ちがいい文化ゾーンになっていて、函館の坂道みたいな感じがしました。
広い入船山記念館の敷地のなかでも注目したいのが、明治38年(1905)再建の姿へと丁寧に復原された旧呉鎮守府司令長官官舎。
洋館部と和館部を持つ平屋建てで、明治天皇の行在所に選ばれるにふさわしい広さと格調高さ。ゲ謎の龍賀家屋敷は古民家や豪農の家の雰囲気を合成して作ったとのことですが(劇場パンフレット)、あちらは余白を埋め尽くすタイプの豪華絢爛さでしたよね。桃山美術みたいなあの感じには、「昭和の天下人」を自称する時貞翁の趣味がよく表れていると思います。
さて、一休みしたら、広島に戻って追憶展のおかわりだ!
今回の呉観光は↓のモデルコースを参考にしました。車窓から呉のリアス式や多島海も望める気持ちのいいコースでした。
9.『追憶展』2日目(鬼太郎の父メインver.)
1日目よりも遅い時間に広島PARCOに到着。なんとなく水曜日と木曜日に来てしまいましたが、脱出ゲームのように「水木の日」の特別ボイスがあるわけではありません。でも週の真ん中の平日だからなのか、両日とも独占状態で鑑賞できて大満足🤗🤗
良い……(噛みしめ)。
6階会場前に列はなく、いきなり受付へ行けました。音声ガイド付きの当日券を購入したら、「Aでお願いします」とお伝えし、差し出されたパッド上のQRコードをスマホで読み取ってブラウザページを開きます。複製原画の鬼太郎くんから「昨日警告したばかりじゃないか……」と呆れられたかもしれませんが、それもまたヨシ。のれんをくぐり、いざ再び追憶展の世界へ!🎧
①プロローグ「おぬしを出口まで案内してやろう」
父の音声ガイドは水木より一つ多くて9本あります。2回目の入場なので、今回は音声ガイドの比較が感想の中心になります。
さて、水木ver.のプロローグでは誰かが水木へ渡していた原稿が、父ver.では「とある者が落としていった案内用の原稿なるもの」になっています。この「とある者」って誰なんでしょうか? 山田記者??
②イントロ「何が起きても逃げるでないぞ?」
「まずこの先にある哭倉村というところに行かなくてはならぬ」と父が言っているので、どうやらここはトンネルの入口あたりみたいです。そこに水木が合流。
この慣れた距離感。そしてやはり父は「撮影を好まぬ者がおる場所もあるぞ」と妖怪の存在を忠告してくれます。
③龍賀家屋敷 大広間「随分と趣味の悪い大広間に出たのう」
水木にとっては「豪華で広い大広間」でも、父にとっては「趣味の悪い大広間」。ここで水木が「カメラを貸してみろ」と言ってくるのでびっくりします。昭和31年ってまだカメラを気軽に持てる時代ではなさそう。もしかして、私自身が山田記者だった……??
水木ver.では「あなた」「客人」と呼ばれますが、父ver.では「あんた」「おぬし」と呼ばれます。私は断然後者が好みですね。距離感が違いますよ距離感が。
④怪しい小部屋「あまり良くない妖気を感じるのう」
東映太秦映画村の写真を上げているのには理由があってですね……。なんか父ver.の水木って、この顔してそうなんですよね。「血じゃないか!!」と大騒ぎしつつ「そこの奥にも何かあるぞ……!?」と好奇心旺盛にぐいぐい先へ進んでしまう感じ、まるでヤンチャ坊主。「水木のやつを連れてきておくれ」と父がこちらに頼む始末です。全力で追憶展を楽しんでるな、水木よ。
⑤龍賀家屋敷の品々「この酒は……」
「さすがは克典社長!! 一品ばかりだ!!」
テンション🤣🤣🤣 父ver.の音声ガイドが1本多いのはこのパートがあるからなんですけれど、内容は水木劇場でした。本人がいないところで褒められている克典に嫉妬してしまう。父もオールドバーを見て「美味そうじゃのう♪」とウキウキし始めるし、水木も「あとで天狗の酒と飲み比べてみるか」と乗り気で応じるしで、なんか、ゲ謎本編より随分仲良くなったな……と心があたたかくなりました。
⑥座敷牢「細かなところまでよく再現されておる」
今度は父サイドから。三首見せるこのポーズ、天才的。父は色気とは何かを心得ている。父ver.の音声ガイドは「なんじゃなんじゃ、せっかくいい気分で寝ておったのに」から始まるんですけれど、水木ver.では「おぬしらが来るまで、ここで昼寝しておったのじゃが」と座敷牢で言うんですよ。このポーズも寝起きなのかな?
引かれるかもしれないんですけどこのセクション、父の下着姿が3ショットもあるんですよ。恥ずかしながら非常に興奮してしまいました……。褌締めてるのではと妄想していましたが、正解は半股引。
祭りで神輿を担ぐときはっぴの下に履くアレ。テラスでのアクションシーンには「着流しがはだけると気が散るので、なるべく嘘でも隠すようにしよう」という方針があったそうですが(アニメージュ2024年3月号)、半股引ならば褌のようにチラチラしなくて安心ですね。
設定画の父の裸は映画の温泉シーンよりも骨ばってるように感じました。肩幅はしっかりあるのもの、肋骨は多少浮いていて、腹筋も目立たない。なのにあの怪力。いいね。セクシーだね。父は骨がセクシーだよ。
一方、水木も上裸に剥かれていて、傷の全体像がわかる資料がありました。こちらは上腕二頭筋も腹筋も盛り上がっていて、映画どおりの鍛えられた肉体に感じました。あっ、でも乳首がついてました。映画ではなぜ描かれなかったのでしょう。まさか、気が散るから……?
⑦妖怪たち「みな普段は大人しいのじゃ」
フォトブースと同じセクションにある、禁域の妖怪たちを紹介するコーナーです。劇場で逆光の河童たちを見たときはそのおどろおどろしさに驚いたものですが、設定画で見ると案外カワイイ。父の音声ガイドは妖怪視点を貫いていて、人外感100点です💮
⑧展望テラス「この空間のなかでも、人間たちが一番念入りに見ている場所じゃ」
父ver.でも水木は「なぜか怪しい雰囲気を感じるが」と胸がザワザワしている様子。一方、父は動く絵の話しかしません。戦ったのに全力でスルーされる長田。唵!
⑨エピローグ「わしは最後のこの部屋が大好きなんじゃ……!」
そりゃそうでしょうとも(泣)!!!😭😭😭
窖ゾーンで音声ガイドがないことをふまえると、展望テラスで父が「心にとどめておくのじゃ」「心にとどめた記憶が人を豊かにしていくものじゃ」と言うのが切ない。孝三は心を破壊され記憶を失ってしまいました。水木は心を失うまではいかなかったものの、記憶は失ってしまいました。
でも最後に一瞬、「誰か」の姿が浮かびますよね。あれはスタッフの方の間でも見解が分かれるそうで(アニメージュ2024年8月号)、私は全部は思い出していない派です。記憶はなくとも、守られた心には何か引っかかるものがあったのだろうと思っています。ゲゲ郎と別れたとき桜の木は既に倒れていたので、花びらの舞い散るあのシーンは記憶ではなく心象風景のはず。
エンドロールで煙草が一切出てこないのも上手い(ビジュアルブック)。記憶を失った水木は、元いた日常にただ戻ったわけじゃないんです。哭倉村でのあの「最後の一本」は、「なかったこと」にはなっていないんです。だから最後に白髪水木は、鬼太郎を抱きしめることができたのでしょう。先行しているのが心なだけで、記憶も遅かれ早かれ追いつくのかもしれません。
いずれにせよ、墓場と鬼太郎の泣き声がちゃんと「誰か」を思い出すトリガーに成り得ているのがゲ謎の構成の巧みなところですよね。
10.まとめ
音声ガイドは全体的に、水木ver.だと水木が大人で父が上機嫌、父ver.だと父が大人で水木が上機嫌に感じました。水木ver.の水木は平日の仕事中に息子がじゃれついてきたお父さん。父ver.の父は休日にお出かけして元気な息子を見守るお父さん。それぞれにそれぞれの父性があってとても良い。
音声ガイドをどちらも楽しみたい場合、水木ver.→鬼太郎の父ver.の順で聞くのがおすすめです。ラストのセリフが良いんですよ。水木ver.を先に聞いてほしい理由は、最後に父の「また会おうのう~!」というセリフで締まるから。父に会いたくなるんです。父ver.を後に聞いてほしい理由は、最後に水木が「またな」と言ったあと、「気をつけて帰れよ」と付け足して締まるから。声音がすごく良いんですよ……ぜひ聞いてほしい。「また会おう」も「気をつけて」も社交辞令ゼロなんです。こんなに父たちによくしてもらえるなんて、もしかしたら私は、鬼太郎の友達なのかもしれません。追憶展のグッズ会場には中央公論社の「文庫『決定版ゲゲゲの鬼太郎』全14巻セット箱」もありました。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 ~追憶展~』、広島での開催本当にありがとうございました。コンパクトな会場ながらも快適で、1回目は2時間じっくり、2回目は1時間さっくり楽しめました。そしてようこそ名古屋へ!
追憶展で愛知県へお越しの方は、せっかくなので定光寺駅もおすすめしたいです。哭倉村への入口っぽい雰囲気が楽しめますよ。他のおすすめスポットはこちら↓の記事にまとめてます✍️ ここまでお読みいただきありがとうございました!
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