ティファニーで還暦を 〜KANREKI at Tiffany's
還暦を迎えた。
ただ59歳から60歳になっただけなのに、一気に「おばあちゃん感」が漂ってきた。
実際、今まで還暦を祝った実家&義実家の両親は、赤いちゃんちゃんこが似合うおじいちゃん&おばあちゃんだった。
ついに私もそんな歳になってしまったのだ。
思い起こせば20数年前、義実家の両親への還暦祝いに海外旅行をプレゼントした。夫の提案だった。海外旅行が死ぬほど嫌いな夫にしては珍しい提案だった。
結婚して間もないころの夫の高くない給料と、おまけに浪費癖のある専業主婦だった私たち夫婦にとって、その出費は思い切ったものだった。なぜ、そんな高額なプレゼントをしたのか、今となっては知る術もないけど、夫なりに精一杯の感謝の証だったのだろう。
ならば、自分の還暦もゴージャスに祝ってもらおうじゃないか。娘は社会人5年目、息子は2年目。バイト生活の私よりも当然収入は多い。今のところ彼、彼女もいないので、お金の使い道もそんなにないだろう(知らんけど)。今がチャンスではないか!
さてさて、プレゼントは何にしよう。
旅行なら昨年末に一人で沖縄へ行ったし、欲しい家電製品もあるにはあるが、生活感が溢れている。
高額なウッドデッキの修理代も負担して欲しいけど、それじゃあまりにも現実的で夢がない。
1ヶ月ほど考えに考えて出た結論は・・・
指輪!
ダイヤの指輪!!
何となくだけどティファニー!!!
・・・なぜ指輪にしたかというと、
実は10年前に婚約指輪をなくしていたのだ。
思い出してもハラワタが煮え繰り返るので簡潔に言うと、「なくした」というより「盗まれた」の方が正確だろう。
夫がコツコツと貯めた、給料の3ヶ月分のダイヤの婚約指輪。小粒ながら最高級の輝きだった・・・。
引越しのバタバタで無防備に置きっぱなしにして目を離した私が悪い。けど、盗んだアイツはもっと悪い。ああ私のバカバカバカ!
ならば警察に届ければいいのにとお思いでしょうが、なんとも情けない話だが、盗難に気がついたのは盗まれてから数ヶ月経ってから。もちろん証拠など一切なかった。唯一報復措置として消費者生活センターにメールした。「あの悪徳業者◆▽$#※には気をつけろ!」と。
そんなことを思い出しながら、休日に娘とデパートへ出かけた。
亡き夫のイニシャルでもある「T」の文字がダイヤで飾られたお目当ての指輪。
ショップの店員さんも満面の笑顔で応対してくれ、最後に水色のボックスに白いリボンをかけ終えてこう言った。
「おめでとうございます。本日は大安、そして一粒万倍日でございます!」
その日がそんなめでたい日だとはつゆ知らず、ただ、休みが合ったから出かけただけなのに。
物欲が満たされた私は天にも昇る心地だった。
帰ってから指輪をはめてみた。
・・・・・。
あれ?なんか違う。
ティファニーブルーも、ダイヤモンドも、60歳のしわっしわっの指にはあまり似合っていない・・・。
いきなり天国から現実へと突き落とされた。
嗚呼、悲しいかな、還暦の夜・・・(泣)。