【CAST@NET vol. 005】科学で草と木は分けられる?~分類の科学~
こんにちは!
私たち東大CASTは、「科学の面白さを、多くの人に伝えたい。」をモットーに、実験教室やサイエンスショーなどのイベントを実施している東京大学の学生サークルです。
この科学コラムでは身の回りの不思議から数学まで、科学にまつわる幅広いテーマを楽しんでもらえるように書いています。
よろしければ、他の記事も見ていただけると嬉しいです。
今回のテーマは「草と木の分け方」です。
萌芽の候、いかがお過ごしでしょうか
皆さんは「萌芽の候」という言葉をご存じでしょうか。「萌芽」とは「草木が芽吹くこと」を意味しており、3月に使われる時候の挨拶として知られているようです。
このように、「草木」という言葉を私たちはよく使うことと思いますが、「草」と「木」は一体どのようにして分けられるのか、皆さんは考えたことがありますか?今回の記事では、科学の視点からこの疑問についてお話していきます。ちなみに、植物学的には草・木のことをそれぞれ「草本植物」・「木本植物」と呼ぶので、以降はこの呼び方を使います。
どうやって分けられるんだろう?
皆さんは、草本と木本はどのように分けられると思いますか?大きさや高さといった外見によって分けられるのでしょうか?それとも、内部の構造に違いがあるのでしょうか?あるいは、その両方なのでしょうか?ある具体的な植物を草本と木本のどちらかに分けるのは、それほど難しくはないかもしれません。しかし、両者を画一的に説明する枠組みを作るとなると、頭を抱えて悩んでしまう人は意外と多いのではないでしょうか。
辞書を引いてみると…
さて、前置きが長すぎてもつまらないので、ひとまず辞書を引いてみましょう。岩波生物学辞典(第五版)という辞書では、草本とは「地上部は,多くは一年で枯れる植物を指し, 木部があまり発達しない草質または多肉質の茎を持つ. しかし地下茎が発達してロゼットをつくる二年生・多年生のものもある.」、木本とは「形成層の活動によって肥大成長した茎および根が多量の木部を形成し, その細胞壁の多くが木化して強固になっている植物.」と定義されていました。
この定義をかみ砕くと、草本とは「木部があまり発達しないやわらかい茎をもつ」植物、木本とは「(形成層の活動により)茎や根が太く大きく成長する」かつ「木部という水や養分の通り道が発達し、固い幹をもつ」植物ということになります。
実際に分けてみると…
さて、草本と木本の分け方を身に着けたところで、実際に身の回りの植物をどちらかに分けてみてください。すると、ほとんどの植物は茎(幹)を見るだけでも簡単に分けられてしまうのではないでしょうか。実際、ほとんどの植物はこの方法で草本か木本のどちらかに分けられてしまいますが、中には上手く分けられない植物も多く存在します。マダケやモウソウチクといった竹がその一例として挙げられます。
分けられない植物も
そこで、竹を先ほどの定義と照らし合わせてみましょう。稈(かん)と呼ばれる竹の茎(幹)は固いため、草本ではありません。一方、林野庁によると「竹には形成層がなく樹木のような肥大成長がない」ので、木本でもありません。そうなると、竹は草本でも木本でもないということになってしまいます。実は、先ほどの分け方は完全ではないのです。
作動中の科学(Science in making)
しかし、科学とは常に更新され続けるものでもあります。なんと、草本と木本の新しい分け方がつい最近になって提案されました。その分け方では、植物が自身の体を支える仕組みによって木本と草本を分けており、体内の水の張力によって自身の体を支えているものを草本、自重によって自身の体を支えているものを木本と定義しています。この分け方は、明快かつ簡便でありながら、力学の理論を取り入れており数式によって厳密な議論ができるというメリットも持ち合わせています。分かりやすい、というのはもちろん大切ですが、‟厳密性”も科学にとっては非常に大切なことなのです。
まとめ
草木という身近なテーマでも、このように複雑な議論ができる、ということがおわかりいただけたでしょうか。画一的な分け方をするためには、個々人の感性に依らない客観的な基準や共通した認識が必要になるのですが、これらを確立するのはそう簡単なことではないのです。
普段の生活で植物を見ることがあれば、草本と木本の違いを意識してみてください。そして同時に、綿々と続いてきた科学という社会的な営みのことを思い出していただければ幸いです。
今回もお読みいただきありがとうございました。
ぜひ、他の記事もご覧ください。
#科学 #サイエンスコミュニケーション #東大CAST #cast #CASTatNET
#実験教室 #サイエンスショー #植物 #草木 #竹 #分類 #作動中の科学