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米国株式投資で必須の武器!SEC開示分析講座⑩〜第4の災害「有償増資」〜

割引あり

みなさん、こんにちは!

アメリカ株式義塾です。「米国株式投資で必須の武器!SEC開示分析講座」第10回を始めましょう。

前回(第9回)はこちら

前回からちょっと一息、難しい財務諸表からは離れています。でも内容は重要なことをお伝えしていますので、よーく見ておいてくださいね。

第9回は、米国株式投資をするとき、皆さんが必ず一度は経験するオファリング(Offering)と新株予約権無償割当(Rights issue)について見てきました。今回もその続きです。新株予約権無償割当をメインに扱います。

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財務諸表で価値投資する際に最も重要な Stockholders' equity(株主資本)を 一発で理解する


今回の話は、企業の資本金(Paid in capital)と自己資本(Stockholders 'equity)を理解していることが大事になってきます。理解に自信がない方は上の記事を読んでからこちらの記事を読むと良いです。ここで簡単に説明されています!

さて本題に戻ります。

有償増資にはいくつかの種類があります。
ㆍ新株予約権無償割当(Rights offering)
・直接株式発行(Direct offering)
・公募増資(Public offering)

この中でも今日のメインテーマは、「新株予約権無償割当」です。


新株予約権無償割当(Rights offering)

企業の資本金を増やしたいときに行われます。その名の通り、新株予約権を無償で割り当てるという意味です。具体的には、既存の株主に株式取得の権利が無償で割り当てられます。株主は、新株予約権の行使や株式の取得、権利の売却ができます。権利を割り当て、株式を購入してもらうことで企業は資金調達ができる、有償増資の一種です。

まずは例として、小さな会社、(株)アメリカ株式義塾があるとします。同社が発行した普通株は合計5,000株ありますが、そのうち3,000株を創業者が持っており、残りの2,000株(流通株式といいます)を市場に解放し、一般株主がこの2,000株をすべて買い取った状態です。1株当たりの価格は3ドルだとしましょう。そして(株)アメリカ株式義塾の今回の当期純利益は300ドルです。

そうすれば、1株当たり利益(EPS)、つまり会社に投資した株主の分け前である当期純利益から株主に返される株当たり利益は300ドル/2,000株=0.15ドルになります。(株)アメリカ株式義塾は株主に今回一株あたり0.15ドルの収益を返したわけです。

ここで(株)アメリカ株式義塾が再び1,000株を1株当たり2.5ドルで発行して新株予約権無償割当をするというニュースが飛び込んできました!新株予約権無償割当なので、既存株主に購入の権利を与え、売れ残った場合は一般に販売するということになりますね。

何が起こるでしょうか?

#新株予約権無償割当で(株)アメリカ株式義塾に生じる変化は?

・会社が発行した普通株は合計5,000株→6,000株に増える
・会社創業者の持分は60%(3,000株/5,000株)→50%(3,000株/6,000株)に減る
・既存の株主に与えられる株主を購入できる権利は1000株分なので、市場に解放された総株式数は2,000株→3,000株に増える
・会社は2500ドル(1,000株×2.5ドル)の資金を追加で獲得する
・会社に投資した株主の分け前は0.15ドル(300ドル/2,000株)→0.1ドル(300ドル/3,000株)に減る

どうですか?例を見たら新株予約権無償割当の影響がわかっていただけたはずです。

新株予約権無償割当をして普通株式数が増えましたが、当期純利益の金額は同じであるため、株主が一株当たりで受け取る利益が発行数分だけ減少します。また、会社創業者の保有持分も減ります。これを株式の希薄化(Dilution effect)といいます。

短期的には、このような新株予約権無償割当を含む有償増資は株価の下落を引き起こすことがよくあります。しかし、同時に抑えておかなければならないのは、「有償増資→無条件の株価下落」ではないということです。有償増資自体には株価を下げる直接的な要素はありません。ただ市場参加者が有償増資を受け入れる態度により株価が下落することがあります。これをもう少し詳しく説明してみるとこんな感じです。

既存の株主の立場では、有償増資が行われた場合に、自分が持っている持分率を維持するには、さらに会社にお金を与えて株式を買わなければなりません。たとえば、(株)アメリカ株式義塾で既存の持分率1%、50株を持っていた株主は今、持分率1%を維持するには合計60株を持っている必要があります。すなわち、25ドルを渡して10株を買わなければなりません。だから持分率を維持したい株主には金銭的な負担がでてきます。


既存株主1:(株)アメリカ株式義塾が新株予約権無償割当をするって⁉︎財務状況が良くないのだろうか…。

既存の株主2:そうだな、お金が必要なら、会社債を発行して銀行から借りればいいのに。なぜあえて会社の所有者たちは自分の持分まで削る新株予約権無償割当をするのだろうか?

既存の株主1:何か多くのお金が必要な事業拡大を緊急にしようとしているのだろうが、これは正直リスクが高いことをしようとしてるんじゃないかって思う。私は不安だし、売っておさらばするよ。

既存の株主2:私も一緒に行きます〜!別の会社を探そう!


実際に株価に直接影響を与えるのは、市場参加者の心理です。このような新株予約権無償割当は会社の資金調達能力に問題が生じたとか、まもなくリスクが高い投資をしようとしているという信号になりえます。なぜなら、急いで資金が必要でない限りは営業利益が十分に蓄えられるのを待って、準備したお金で新しい投資をするか、金融機関に会社債を発行してお金を借りるかするはずです。既存の株主たちからの支持を失いかねず、創業者たちの持分まで減少する新株予約権無償割当をあえてすることはないでしょう。

だから「新株予約権無償割当が発表された=会社に問題があった、または、お金が急に必要なリスクある投資をしようかなと考えている」と市場参加者は考え、株を売り、下落という因果関係が成立することが多いです。

白カブ部長

白カブ部長:なるほど、仕組みが分かりました。では、新株予約権無償割当はどのような観点から見ればよいですか?
良い質問です。*\(^o^)/*

まず、財務状況が本当に悪い会社が新株予約権無償割当を行う場合、新規参入は控えて、もし株式を持っているなら売り払うタイミングです。
最も簡単に新株予約権無償割当をした会社の財務状況をチェックする方法は流動比率(Current ratio)を見ることです。簡単に説明します。


# 流動比率(Current ratio)って? 

「流動資産(Current assets) / 流動負債(Current liabilities) 」

で求められます。

例えば、(株)アメリカ株式義塾の、1年内に現金化できる流動資産が1000ドル、1年内に返済しなければならない流動負債が3000ドルであれば、流動比率は33%と算出されます。流動比率が低いほど良いとはいえず、100%を超えれば大丈夫だといえるでしょう。

また、実際に製品を製造する企業や、在庫をストックしておく必要がある消費財メーカーの場合は、より保守的に当座比率(Quick ratio)を見て置く必要があります。簡単に言うと、会社がすぐに現金化しやすい資産から今まで保管されていた棚卸資産を差し引いたものですが、お金が本当に急に必要で、在庫をすぐに現金化する際には、どうしても相場より安い値段で売却するしかないので、この棚卸資産を全くないものとして、流動資産から棚卸資産(Inventories)を引いた金額を流動負債(Current liabilites)で割ったのが当座比率です。


# 当座比率(Quick ratio)とは?

「(流動資産 - 棚卸資産)/流動負債」で算出する。

棚卸資産の多い企業でもう少し保守的に財務状況をチェックする際に使用される指標で、流動比率と同様に、当座比率が適度に高い状況なら財務状況は大丈夫だと判断できます。

こうした指標をまずチェックしてみて、対象企業の当期純利益や現金保有状況もあわせて総合的に判断し、本当にこの企業がすぐに、1年以内に返済しなければならない負債も返済できなくて緊急に有償増資をしているのだとすれば当然投資してはならない企業だといえるでしょう。

第二は、財務状況に問題がない場合です。この時は収益金の使用先を確認したうえで、株式購入の絶好の機会だと見なければなりません。

絶対多数の投資家たちはこのような詳細まではよく理解しておらず、ただ「有償増資=株価下落」とだけ理解しているため、短期的に焦って多くの売りが出て、一時的に株価が急落することがありますが、この記事を読んでくださった皆さんだけが手にできる、良い会社をより良い価格で買える大チャンスです。ただし、一つチェックする必要があるのは、増資の正確な規模と収益金の使用先です。


例えば、テスラ(TSLA)は2020年12月8日に50億ドル規模の公募増資を行いました。

424B5

https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1318605/000119312520312218/d25283d424b5.htm#supptoc25283_7

これは上記の「424B5 Prospectus」公示で確認できます。



目次にもある「The Offering」の部分では、公募増資で何株をどのくらいの価格で発行するかが知らされます。

実際の内容を見てみましょう。




・1株当たり641.76ドルの価格で7,791,074株を発行して50億ドルの公募増資を行う。
・2020年9月30日時点で発行された普通株式947,853,721株にこの7,791,074株が加わり、発行後の総普通株式数は955,644,795株となる。

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