遊びのなかで大人に近づく実感
こんにちは。ワークショップデザイナーの臼井隆志(@TakashiUSUI)です。
今日は、子どもは「ごっこ遊び」が大好きですが、その延長でときどき行う「本物の活動」は、大人に近づく実感を得られるのでは?という話です。
まずは、前回の記事で募集した「おたより」をご紹介します。今回のテーマは「子どもの頃、料理を手伝って楽しかった話、もしくはお子さんと一緒にやってみて面白かった料理」でした。
おたよりのご紹介
というわけで、みなさんからのおたよりのご紹介。まずはこちら!
ばばばーちゃんのよもぎ団子作る話の絵本があって、庭のよもぎ摘んで作りました。楽しかった
絵本に描かれた料理って、おいしそうですよね〜!
つづいてはこちら!
私は、祖母の家で作ったおにぎりですかね🍙
年齢は確か、4歳くらいだった気がします!三角に握るのが難しく、苦戦しながら握れた時は嬉しかったなぁーと、おにぎりを握る度に思い出します(^^)
それと、料理ではないですが、5歳ごろに2歳の弟と、ひたすら急須にお湯を注いでお茶を入れて飲み続ける「お茶ごっこ」にはまっていた時期もありました笑
おにぎりか〜!ある種の造形遊び要素ありますね。そして、お茶のエピソードはtwitterでも別の方がやっていたという話を見かけました。
そして、こちら!
ホットケーキ焼くのが楽しかったです 。自分でレシピ帳作って見ながら作りました。
小学一年頃なので、難しいことはなく、ホットケーキミックスの箱に書いてあるのをノートに書き写しただけですが、ふつふつ穴が空いてきたらひっくり返すとか、きつね色になったら出来上がりとか色やイラストも入れてました。
当時はすごく難しいことを成し遂げたようで、出来上がりは誇らしかったです。
調理をするだけでなく、レシピ帳をつくる、というのがまた素敵ですね。そして、こちら!
小学校に上がってすぐの頃に「オムレツ作りブーム」があった。
友だちが家に遊びに来ると(親は不在)、卵1個分のオムレツを作って友だちに振る舞い、さらに「将来は卵の屋台を開きたい!」と友だちに語っていた。
今思い返せば、親も居ない上に手も洗っていない超危険、不衛生な状況下で調理していたことにヒヤッとするし、そんなオムレツを話を聞きながら食べてくれた友人には感謝しかない。
いやぁ、どれも面白いエピソードですね。絵本、お茶、レシピ帳、そして秘密の台所…。いただいたエピソードに関しては後半部分で考察していきます。
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前回までのあらすじ
さて、ここまでのこの連載の話をふりかえってみたいと思います。
3つ前の記事(「遊んでもらうから遊んであげるへ」)では、大人が子どもに対して「遊んであげる」ことで、子どもが仲間に対して「遊んであげる」ようになるという話を書きました。
そして前々回(「ごっこ遊びはなぜ高度なのか」)は空想の世界を共有して大人の真似をして遊ぶ「ごっこ遊び」の構造と、その発達過程を考えてきました。「ふり」「役割」「ごっこ」の順番で発達していくというふうに書きました。
前回(「リアルごっこ遊びの可能性」)は、みなさんからいただいたおたよりから「リアルごっこ遊び」というテーマで考えてみました。ごっこ遊びの中でおもちゃだけでなく「本物の道具」が積極的に使われていることがわかりました。本物を使うことで、大人の社会のロールプレイをし大人に近づいていく実感がわくのかもしれません
「発達の最近接領域」とは
「リアルごっこ遊び」は、大人に近づく実感を生む。この話から連想するのは「発達の最近接領域」という概念です。
これは旧ソビエトの心理学者レフ・ヴィゴツキーが考えたものです。ものすごく単純化すれば「1人でもできる」と「1人ではできない」の間にある「他者の協力があればできる」という能力の領域のことです。
たとえば、台の上によじ登ろうとして登れない子どもに対して、小さな足場をつくってあげて、自力で登れるようにサポートする。この「足場」のようなものです。
この場合、足場を差し出したのは人ですが、足場自体は具体的な「物」です。「発達の最近接領域」をつくりだすのは、人だけでなく物や環境も含まれそうです。
さらに「生活のなかでの具体的な経験」と「メタで抽象的な概念」との間を橋渡しすることもまた「発達の最近接領域」の役割です。このあたりは複雑なのですが、いまのところのぼくの理解を以下の図に示しておきます。
料理遊びの「発達の最近接領域」
「他者の協力があればできる」という能力の領域を「発達の最近接領域」といいます。その領域を作り出すのは「人の協力」だけでなく「環境の作用」もありそうです。
みなさんからいただいたエピソードから考えてみます。
「ばばばあちゃんの絵本からよもぎ団子をつくった」というエピソードは、絵本というファンタジーがよもぎ団子を作りたいという動機をつくっています。この場合、絵本が「発達の最近接領域」を作り出したと言えそうです。
「おにぎりづくり」「お茶を淹れる遊び」のエピソードは、日常と文化をつないでいます。親御さんがおにぎりをつくること、お茶を淹れることをOKとし、道具を与え、あるいはやり方を教えてあげたとすれば、そうした親御さんの行為が「発達の最近接領域」となり、おにぎり・お茶という「大人の文化」に参加するということが可能になったのかもしれません。
「ホットケーキのレシピ帳をつくっていた」というエピソードは、「レシピ」という書き言葉を使っていたことに注目です。レシピ帳を真似して言葉や図を描くことは、自分自身の思考・行動をふりかえることができます。うこの「レシピ帳」によって生活のなかでの具体的な経験と、料理をつくるという大人の文化がつながっていると考えられます。
また興味深いのはオムレツのエピソード。これは友人のおうちに行って、親御さんの目を盗んで、キッチンという環境を手に入れた。まさにこの「環境」がそのまま「最近接領域」になっていたのだと言えます。面白いなぁ。
まとめ
子どもは大人の真似をします。「大人に近づく実感」を欲していると言えます。しかし無理に子どもを大人に成長させる必要はないとぼくは思います。子ども時代の遊びの虜になるような経験は、大人になった今を支えていると思います。
その「遊びの虜になる」というときに、実は「発達の最近接領域」のただ中にいる、ということがありうるのだと思います。その例として、料理があるのかなぁと。
子どもと料理の相性がいいのは、食べ物を作るときに手を使うし道具を使うし、匂いも感じるし、食べれば食感も味もわかるし、たくさんの感覚を使うところです。こうした感覚が「大人に近づく実感」を高めているのでしょう。
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次回のおたよりのテーマ
さぁ、これまで複数回にわたってごっこ遊びについて探求してきました。次回は「探索行動とごっこ遊び」をテーマに、いままでの考察をまとめていきたいと思います。
というわけで、次回のおたよりのテーマは
「子どもの頃につくった秘密基地」
です!
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赤ちゃんの探索 ごっこ遊びシリーズ 連載
・「遊んでもらう」から「遊んであげる」へ
・「ごっこ遊び」はなぜ高度な遊びなのか
・「リアルごっこ遊び」の可能性
・大人に近づく実感 発達の最近接領域とは
・探索行動とごっこ遊びのかけあわせ(次回)
スマート新書も好評発売中!
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