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赤ちゃんの全身運動の試行錯誤

こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は子ども向けワークショップの開発を生業にしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに主に赤ちゃんの認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。

前回の記事「赤ちゃんの全身運動はどのように変わっていくのか」では、赤ちゃんが生まれてから寝返りしてハイハイを始めるまでを描いていきました。今回は、立つ、歩くという動作について書いていきます。

ざっと前回の記事の運動の変化の流れを一覧表で整理しておきます。

つかまり立ちからはじめの一歩まで

さあ、4点で支えながらハイハイで移動することができたら、次は「つかまり立ち」です。ハイハイしながらソファの端やテレビ台に寄りかかり、はじめは膝でよりかかり、次第に両足の裏で地面をとらえます。そうしてつかまり立ちして、片手を離し、ふらふらして、ペタンと座り込むのを繰り返したり、テレビ台の上に置いてあるものを取ろうとして手で体を支えながら歩く「つたい歩き」などを繰り返すなかで、次第に足の裏で体を支える方法がわかっていきます。

ヨガに「タダーサナ」というポーズがあります。これはただ「立つ」というものなのですが、「足裏4点(親指の付け根、小指の付け根、かかとの右側、左側)を意識して左右に均等に体重がかかるように」「内腿を寄せる」「尾骨を下に伸ばす」「肩の力を抜く」など、無意識にしている「立つ」という姿勢のなかで、いろんな部位に意識を向けるものです。

さらに、ヨガにはしゃがんだ状態からゆっくり立ち上がるという動作もあります。足の裏で地面を押しながらゆっくりと膝を伸ばし、同時に背骨の椎骨をひとつひとつ積み上げるようにして立つ、というものです。この「タダーサナ」は、赤ちゃんが何にもつかまらずに立つときに意識していることに似ているかもしれません。厳密には異なりますが、足の裏を面で使い、足首、膝、腰、背骨、頭の位置を調節してバランスを取っていく。

そうしたコツを覚えて初めて、片足で体を支えている間に片足を前に出して重心を動かし、一歩を踏み出すことができます。最初はバランスをとることに必死ですが、だんだんと上半身を柔らかく使って身体の軸を少し回すことでスムーズに歩けることがわかっていきます。

赤ちゃんの運動はマインドフル

こうやって考えると、自分がいかにルーズに立ち、ルーズに歩いているか、反省してしまいます。赤ちゃんの方がよほど姿勢や運動について気を配っている……。

最近多くの人が取り入れている「マインドフルネス」の方法は、別にスピリチュアルなものではなく、普段から雑多な情報にさらされ続け、集中の散漫な状態が常であるぼくたちに、身体の姿勢や感覚に意識を向ける時間をつくることを勧めているものです。外から入ってきて頭のなかで思い浮かんでくる由無し事をぼーっと受け流していく。その間、自分の身体の感覚、姿勢の感覚に目を向け、耳を傾けることで、脳が休まり、思考が整理される感じがあります。(ぼくも一時期妻に教わってやっていましたが、最近やってなかったな…)赤ちゃんの運動は、ただただ立つこと、歩くことに喜びを感じる。それはとてもマインドフルな時間なのではないでしょうか。

ボディイメージ/ボディスキーマ

話が脱線しました。いよいよ二足歩行をしはじめた赤ちゃんですが、はじめのうちは、集中力や筋力が持続せずにペタッとお尻をついてしまったり、ドタッと転んでしまったりします。歩けるようになってしばらくしても、机の角に頭をぶつけたりします。「慣れていないから」「まだ安定しないね」という見方もできるのですが、ここでは「ボディイメージ」と「ボディスキーマ」という言葉を通して考えてみたいと思います。

手を水平に挙げたときのズレの絵 あたまのなかのイメージと実際の身体の大きさを同じにして、イメージの方はぽわんぽわんで囲う

武井壮さんが何かの番組で、「目をつぶって両手を水平に上げたとき、水平だと思っている位置で手を止めても、鏡で見ると微妙に歪んでいる。この”頭ではできているけれど、身体では実践できていないこと”のズレをなくしていくこと、これが運動神経をよくすることなんです」というようなことを言っていた気がします。ボディイメージ/ボディスキーマのズレと修正とはまさにこれです。

「ボディイメージ」とは「あたまのなかでイメージしている身体」のことで、「ボディスキーマ」とは「実際の物理的な身体」のことです。年齢が小さなうちは自分の身体についてのイメージがあやふやで、頭ではできるとイメージしていても、実際の身体はそれについていかないということが多々有ります。運動と感覚のフィードバックを繰り返すこと、チャレンジと失敗を通して次第にこのボディイメージとボディスキーマが重なっていきます。

ボディイメージとボディスキーマに関してはこちらの本がおすすめです。

全身運動における[予測と確認]

そのときに大切なのは「運動を予測する習慣をつけることだ」と理学療法の先生が言っているのを聞きました。ただ歩かせるのではなく「ここまで歩いてみて!」と手を広げる大人のもとまで頑張って歩き「やったー歩けたー!」と大人が喜んでくれると達成感があります。

どのくらいの距離で、どのくらい身体をうまく使えば歩けるのか、予測できるようになっていきます。ジャンプできるようになればどのくらいの距離や高さをジャンプできるか。高さや距離の数値が大きければ良いわけではありません。たとえ小さなジャンプでも、達成できる喜びをたくさん味わうことです。こういった習慣がつけば、運動を計画し、実行し、予測通りだったかどうかをフィードバックするという学習ループができるのだそうです。

ちなみにその先生のお子さんは、[予測]の習慣を徹底していたら、小学校1年生で「もうすぐバク転する」とか「スケジュール帳を自分でつくって遊んでいる」というお話を伺い、びっくりでした。

まとめ

さて、ここまで2回にわたって生まれてから歩くまでの過程を見てきました。次の運動への移行のフェーズでさまざまな「準備運動」があること、運動においてボディイメージとボディスキーマのズレの修正が重要であること、そのために予測の習慣が効果的であることが考えられます。

「早くハイハイしないかなぁ」「なかなか歩かないなぁ」と思ってしまうのも無理はないのですが、いま赤ちゃんが興味をもっているのはどんな運動なんだろう、と関心をよせ、一緒に楽しむことができたらよいですよね。

次回

前回ほんとうは予告していた「触覚のデザインと赤ちゃんの遊び」について書くか、あるいは「赤ちゃんのためのファシリテーション」について書くか思案中です!

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臼井 隆志|Art Educator
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