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きっかけその1

 作るぞー、生むぞーのモードに入ると、アンテナがもこもこと頭を出してきて、被っていた薄布一枚が風で飛んで行った。感受性がむき出しになって、ほしい情報もそうでない事柄もばんばん同じ強さでぶつかってくる。砂埃だらけの風に裸眼で裸体で吹き曝されている感じを久しぶりに味わう。ざらざらヒリヒリ。これをしんどく怖がって籠っていたのもあるなあと振り返る。何のことはない、二日ほどで慣れた。 
 アウトプットにはインプットが必要で、逆に良いインプットがあると何らか出したくなる。自分のフィルターを通して何かが抽出されていく。単なるおしゃべりにしても「聞いて、聞いて」「見て、見て」は自分なりの表現であろう。
 朗読会をしよう、とは大津に帰ってから漠然とは考えていた。それが今回、具体化するのにはきっかけがいくつかあり、そのうちの一つが今記事の見出し写真に使った「ときめきの髪飾り」展である。京都市地下鉄構内で目に飛び込んできたピンクのチラシ。まず細々した細工が好き。そして物は、女の人の情念と職人の執念が縒りあった「櫛」。私の好みにどんぴしゃりで久しぶりに美術館に足を運んだ。

白蔵主図蒔絵櫛/岡崎智予コレクション

 こういう時の勘は外れない。一日かけて櫛・笄・簪、印籠その他の展示品に夢中になった。工芸の巧みさ見事さは見応え抜群、モノがかいくぐってきた歴史、持っていた人の営みさえ感じえて大満足。満足しただけではない。ぶすぶす燻っていた表出したい欲にメラメラと火が付いた最初のきっかけはこの観覧であった。
 展示会の元になっているコレクションは、祇園の芸妓を経て東京で料亭の女将として活躍した岡崎智予氏による蒐集で、そして、この方をモデルにした小説がある。芝木好子作「光琳の櫛」。昭和17年に芥川賞を受賞して文壇に出てきた作家で、本人の品の良さから良くも悪くも「奥様作家」と言われ、先輩たる林芙美子氏からは「あんた方は、私たちが血みどろになって開いた道をすたすた歩いてくるんだから」などと言われた方だそうである。
 昭和の小説は良い。文章からくる情報量が緻密でどっぷりその世界につかり脳内異世界へ旅することが出来る。この作品もまさしくそうで、朗読してみたいと思い稽古で声に上せてみれば、黙読以上に書かれた世界が立ち上がった。朗読会では小説の始まりあたりを15分程度読む。短い抜粋ではあるが、蒐集する者の心持、花街生まれの女のあり様を丁寧に記した部分になる。その息遣いの鮮やかさをお客様に伝わるようアウトプットしたい。
 死後50年経たない作家なので、著作権申請が必要で、無事に著作権継承者の方に許可を頂けた。この話も記録がてら次回以降に記す。お待ちあれ。
 


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