《読書記録》 水曜日の手紙 / 森沢明夫
この4行から物語が始まる。単純にワクワクした。
実在した「水曜日郵便局」というプロジェクトを元に、物語が作られたという。存在を知っていれば、きっと私は手紙を出したに違いない。もしかしたら、人生が変わっていたかも、なんて。
この本に出てくる人たちは、それぞれどこか燻っている。身近なひとの人生とじぶんを比べて、落ち込んで、言い訳をして、自分には無理だと諦めている。本当は「パンで人を喜ばせたい」「絵本作家になりたい」など、夢を持っているはずなのに。
ひょんなことから、それぞれが「水曜日郵便局」の存在を知る。理想のじぶんを成功した前提で書いた手紙と、ええいと書き殴った決意の手紙が交差する。届く相手は選べないのだが、郵便局員の粋な計らいによるものだ。届いた手紙に背中を押され、主人公たちが、一歩、また一歩と踏み出し、物語が展開されていくのだが。
この物語は、何かを盛大に成し遂げる、サクセスストーリーではない。一歩を踏み出すまでの葛藤や気持ちの変化がありありと描かれている。そこにはいつも、背中を押してくれる言葉がある。
大切なのは、頭じゃなくて、心に従って行動すること。そうしていれば、物事が上手くいっても失敗しても、後悔することはないんだよって
目に見えるモノを誰かと分け合えば、自分の分は減ってしまう。でも、目に見えないモノ。たとえば、やさしさやしあわせは、誰かに分ければ分けるほど増えていき、しかも、自分の分は減らない。いや、むしろ増えさえする
いろんな人生があっていい。しかも、それぞれの人生は愛おしい
大切なのは、どの道を選ぶかよりも、むしろ選んだ道を自分たちがどう感じ、どう生きるか、それと、誰と一緒にその道を歩むのか、だと思えたから。
燻っている、いまの自分にも、じんわりと響いた。あなたの人生も愛おしいし、こんな私の人生も愛おしいのだと。じぶんの夢、パートナーの夢、守るべき家族、もう会うことのできない大切なひと、同じ夢を追う友だち、そして想いの詰まった手紙たち。全てが、優しくて、温かくて、愛おしい。
爽やかで、少しだけ力のある風が、ふわりと背中を押してくれる、そんな物語。わたしも一歩踏み出してみようかな。
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