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あいつ

「あいつ。いい奴だったよな…」

告別式でそう言われるなんて、友人だった(あいつ)は、今まで相当いい人生を送っていた、という証拠だろう。

今日はバイクの交通事故で亡くなった(あいつ)の葬式。(あいつ)とは高校卒業以来会っていなかったが…まさかこんな形での再会になるなんて、自分でも少し動揺している。

告別式には俺と友人の境井、地域に住んでいる人らがちらほら来てるみたいだったが、規模の小さなものだった。

あいつの両親はもう亡くなっていたのか…近所のお節介爺さんの三津さんが喪主の様だ。親戚付き合いも希薄だた様で、叔父や叔母の様な人物の姿を一回も見なかった。

正直俺は今日、仕事を休めるかすら怪しかった。が、課長に頼み込んで毎度なんの進展もない会議を抜け出し、なんとか参列することが出来た。戻った後の仕事が怖いが…、まぁ、行かなかったところで仕事量が減るわけでもあるまい。

「お前 アイツとは高校卒業以来だよな?」

喪主に挨拶をした後、ちょっと一服しに軒下へ出た。そこで、帰省したら今でも飲みに行く境井が話しかけてきた。

「あぁ、高2の時同じクラスになってからつるみ出して…修学旅行も同じ班だったけ?あいつあの時からバイクとか機械いじるの好きだったよなー。

高2の社会の…秋田弁訛りのセンコウいただろ。ミツイだっけ?ヒョロ長いメガネかけたじーさん。

あいつミツイの物真似うまくてさ、毎回昼休みにやって馬鹿みたいに笑ってたわー。」

境井はきょとんとした顔で俺をみた。

「お前、ほんと記憶力いいな。」

昔から記憶力だけは意外と自信があった俺は、

高校卒業後、何とか隣県の大学に入学した。

「いや俺もお前と同じでさ。アイツとは高校卒業と同時に縁切れて、正直今日行くか迷ってたわけよ。」

境井が2本目を取り出した。

「俺らも結構オジサンだしさ、早々仕事抜け出すわけにもいかないし。俺もお前と同じで高校卒業後すぐ地元出たから、こっちに知り合いも少ないしさ。正直お前来るって分からなかったら、こっちに来ないで適当に遊んで実家泊まって帰ってたかもしんねぇわ。」

「…すまん境井、話の途中だけどコンビニ付き合ってくんね?」

喪前で話す事でもないと思い、境井が2本目に火をつける前にその場を離れた。境井は「なんだよ〜」とはにかみながら俺の後をついてきた。こいつは昔から愛想だけは良かった。まるで犬みたいだ。

玄関を出ようとしたところで、境井が俺に言った。

「そういえばさ、俺、アイツと修学旅行行った記憶ねーぞ?」

「は?お前頭大丈夫か?あいつは俺らと同じ班だったし、清水寺の前で写真撮った後ふざけて飛び降りようとしてミツイに怒られてー…」

俺はふと靴を履くのをやめた。

「…境井、確かに俺らあいつと写真…、撮ったよな?」

すると境井はきょとんとした瞳で、俺を見つめた。

「いや…。ミツイに怒られたなら、写真はミツイが撮ったって事じゃね?」

「いや待て。ミツイは俺らと一緒に写真に写ってるぞ?だってほら、俺その時の写真いまだに携帯に残してるし」

「ぶっは!なつかし〜!見せて見せて!」

境井が俺の携帯を取り上げた。その瞬間、境井が俺にこう呟いた。

「あれ?これ、アイツじゃなくね?」

その瞬間、突然携帯の充電が切れた。








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