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コロナをきっかけにやめた「背取りごっこ」の話

コロナが蔓延していた時期をきっかけにやめた行動がいくつかあります。

そのうちの1つが3年くらい暇にあかしてたまにやっていた「背取りごっこ」と名づけた1人遊び。

「背取り」という行為は、簡単に言えば古書業界の転売ヤーみたいなもの。

せ‐どり【背取り】
古書業界で、転売目的として同業者や愛好家から古書を買い取ること。特に、掘り出し物を見つけて高く転売すること。

デジタル大辞泉

 古書店に行って、本棚見ながらスマホで買取価格とか検索すれば簡単じゃね? って話ですが、スマホがない状態で品定めをしようと思うと相当な目利きでないと損しかしない商売。
そして、本の玄人なのに古書店の経営者にめっちゃ嫌われる人たち。私は嫌われ者になる気はないので、背取りをしたことはありません。

「背取りごっこ」は、古書店ではなく図書館でやっていました。
どこの図書館にもそこでしか所蔵していない本が1冊くらいはあるんじゃないか? と思って、その1冊を探してみようと始めた遊びです。

本来の背取りは本の価値をお金になるかどうか、に置くのに対して、背取りごっこは本の希少性に価値を感じる遊び。

まずは、どこでもいいので図書館へふらっと行って、書架をぶらぶら見て、スマホで検索はせずに日本全国の図書館・書店・古書店で手に入らなさそうな本を探します

何冊か手にとったら閲覧席で答え合わせ。
国立国会図書館の所蔵・大学図書館の所蔵・大型ネット通販の在庫・古書店の在庫 などを調べて手にした本がどれくらい手に入りにくいかを調べます。

始めた頃はまったくダメで、新刊書店の店頭で売られている本を手にすることもありました。
でも、続けていくうちに訪れた図書館でしか手に入らない1冊を見つけられるようになってきて、見つけた時は図書館の隅でほくそ笑んでいました。

なにが楽しいって、見つけた感が楽しい。
本の内容は、ものすごく狭い地域のお祭りをまとめたものや、ロシア語の絵本、婦人会が作ったわらべうた、個人の句集、などいろいろあったけど、ものすごく特別というよりは誰かの本棚から図書館に紛れ込んでいる感じがする本ばかりで、広く市場に出回っていない分、とても貴重で価値のある本に出会えたような感じがしました。

 「背取りごっこ」を始めたきっかけは、図書館のレファレンスで働いているとどんな本にも求める人が必ずいる、と思うような調べものの相談を受けることが多かったからだったように思います。
それくらい、たった1冊の本が見つからないことが何度もあった。だから、私は日本全国探してみても町の図書館に1冊しかない本がとても貴重に感じられて、この遊びを長く続けていました。

遊んでだわりには背取りごっこのおかげで、レファレンスカウンターでの資料を探す時になんとなくこの図書館にありそう、という司書の勘みたいなものが磨かれたと思っています。
これはこの遊びをやらなければ得られなかった経験知じゃないかと。

ただ、この遊び、めちゃくちゃ時間がかかるので図書館での滞在時間も長くなる。
必然的にコロナ蔓延期間中はできなくなってしまいました。
その間に私の考え方がちょっと変わり、本がどれくらい普及しているかで価値判断するような遊びをするより、自分で本を作ったり、書き手との距離が近く感じられるような本を探したりする方が楽しくなって「背取りごっこ」はやめました。

図書館で長い時間をかけて本を探す時間が減ってしまったのは少し寂しいので、またおもしろい調べもののテーマでも見つけられたらないいなと思っています。

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