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[日没]桐野夏生(2020,2,29)岩波書店 329pp. ☆☆☆
書評の欄をはじめます。下の3段階で評価します。
☆☆☆:読む価値あり
☆☆☆:暇なら読んでも損はない
☆:無理して読む必要なし
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日本学術会議が新会員として推薦した候補のうち6名を、菅首相が任命しなかったことが話題になっている。研究者や関係者からは問題点が指摘され抗議されてているが、一般の人々にはどこか別の世界の話のようで、ピンときていないと思われる。しかし、これは言論・表現の自由という観点から見ると、とんでもないことが起こり始めたことを示している。ダムもアリの一穴から崩壊するというたとえを考えると、恐ろしくなる。こんな状況の中で、本書が発行されたことの意義が大きい。
物語は、主人公の小説家「マッツ夢井」に、総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会からの召喚状が届くところから始まる。召喚状に応じて出頭すると、そのまま僻地(茨城県!)の療養所に収容されてしまう。理由ははっきり説明されることはないが、読者からの告発に基づいているという。公序良俗に反することを書く作家ということらしい。
転向を求められて指導がなされるが、明確に方向性がしめされることなく精神的な圧力を加えられていく。この間の主人公の精神的葛藤がよく描かれている。最終的には、廃人になるまで追い詰められていく。ただ、転向した他の作家達も決してハッピーではない。
全体的に絶望的で暗いストーリー展開であり、救いはない。しかし、読者は表現の自由が権力によって奪われていく時の気持ち悪さや恐ろしさを疑似体験できる。
物語後半で科学者として医師が登場するが、その活動や考え方はゾッとする。これも現代にはありがちだろう。
今、日本で起ころうとしていることを先取りしたような内容であり、広く読まれることを望む。ダムが崩壊するまえに、アリの穴を塞がなければならない。太平洋戦争に突入した時も同じようなことが起こっていたことを思いださなければならない。
本書の最後に書かれている、中学生がノーベル賞作家の講演会でした質問『良い小説と悪い小説を見分けるにはどうすればいいのか?』。日本の今を象徴した言葉とも思える。