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[2084年報告書-地球温暖化の口述記録]ジェームス・ローレンス・パウエル(2021,10.25)国書刊行会. 253p.☆☆

3段階の評価をつけます。
☆☆☆:読む価値あり
☆☆:暇なら読んでも損はない
☆:無理して読む必要なし

題名に引かれて読みました。

アメリカの大御所の地質学者が書いた本です。
題名は,ジョージ・オーエルの有名な本「1984」をもじったものです。
「1984」は全体主義的国家の恐怖を描いたデストピア小説ですが,本書はその100年後の世界を描いています。
地球温暖化阻止に失敗した人類がたどる悲劇の未来を描いた「1984」以上のデストピア小説です。
気の弱い方は読まない方がよいかも・・・

学者,医者,技術者,政治家,一般市民etc.への架空のインタビューをいう手法で書かれています。
それぞれの立場で,地球温暖化への対応について失敗したことが語られています。

旱魃・森林火災,洪水,海面上昇,氷,戦争,ファシズムと移民,健康,種といった事柄について話が展開していきます。
上記の内,旱魃から氷(氷河の融解)が地球温暖化によって地球全体にわたって起こり,その影響を受けて,人類にとって快適な生活空間がなくなるというのが主旨。
快適な生活空間を失った人々は,より快適な空間をもとめて大量に移動することになります。
現在でも,戦争のための国境を越える移民は問題になっていますが,環境悪化による移民も膨大な数になるという予想です。

移民問題が深刻になると,それが戦争の原因になったりファシズム体制が出現するというのです。
高齢者など弱者は早めに排除されていき,高齢者の中には尊厳死を求めるものも多数出てくると予想しています。
それを示すのにヴィクトル・ユーゴーの次の言葉を引用しています。
『世界のすべての軍隊を合わせたより強いものがあり,それは最後を迎えたいという思いである』。

戦争としては戦術核兵器を用いた核戦争が世界各地で起ったり,ウイグル族テロリストが山峡ダムを爆破したりなどといった恐ろしい予想も述べています。

地球温暖化への対応を怠って100年すぎると,地球上では今まで経験したことのない環境破壊が進行し,2084年には人類は絶滅一歩手前まで行くというデストピアSFです。
本文の中でも引用されていた,核戦争により世界が滅びてしまうSF小説『渚にて』の読後と同じ脱力感を感じてしまいました。

私自身,人類がこんな結末を迎えることはないと思っているのですが,昨今のウクライナへのプーチンの振る舞いなど見ていると,この本で予想されているような愚かなことも起こってしまうかもしれないという一抹の不安を覚えました。

地球温暖化による環境破壊で人類が滅亡にいたるのを防ぐ方策として,原子力発電中心のエネルギー転換を推進すべきであるという,著者の結論には私な納得できないまま本をとじました。
原子力発電があまり進まないのは,根拠の無い原子力への恐怖心が災いしているという断言には,まったく同意できませんでした。
福島第一原発事故に対する,著者の解釈は浅いと感じました。

アメリカにおいて多分発言力があると思われる著者が,このような本を書いていることは注視すべきだと思います。
2028年には私はこの世にはいなので,検証はできません。
ただ,今年生まれた子供の多くは2028年には高齢者となって生存しています。

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