コナンレビュー

05月19日-名探偵コナン第902話「妃弁護士SOS(後編)」 -小五郎と蘭の超人ぶり

「ツッコミと法律で楽しむコナン・アニメレビュー」第3弾。前編に続く第902話は小五郎と英理が熱い回でしたね。小五郎の忍者並のビル登りやまさかの名言も飛び出しました。レビューでは英理救出の過程を追いつつ、犯人グループに強制わいせつの未遂罪が成立するか否かについて法的検討を行います。

1.放送概要 

放送日時:2018年05月19日(土)18:00~18:30

原作:あり(名探偵コナン93巻)

登場したレギュラー人物:コナン・小五郎・蘭・妃英理・高木刑事

見逃し配信:https://www.ytv.co.jp/mydo/conan/

あらすじ:番組ホームページより引用

恨みを持つ男3人に拉致された妃英理。小五郎、蘭、コナンは英理がいる場所を探すため、事務所から1キロ先の東都タワーが見える増上寺にやってくる。コナンはスマホと鐘の音を利用し、英理がいる場所を分禄町と須単町に絞り込む。英理は自分のメッセージが男たちに筒抜けと知り、暗号のようなメッセージを蘭に送る。コナンはこの暗号を解き、英理は須単町にいると確信。さらに英理は廃ビルの特徴をメッセージに書き蘭に伝えるが…


さらに詳しいあらすじ:公式サイト参照

2.小五郎&蘭の超人ぶりが光る救出シーン

いくら愛する妻がピンチとはいえ、ビルの4階までパイプをつたってよじ登る小五郎の忍者っぷりには笑わせられましたね。犯人グループのボスも、小五郎に瞬殺されていて弱っ!!と思いましたが、まさかいきなり窓から小五郎現れるとは想定外でしょうから、致し方なしです。

そして蘭についても安定の超人ぶり。入り口シャッターを蹴り抜いてくれました。器物損壊罪(住居侵入罪も)の構成要件に該当しますが、緊急避難なのでセーフです。ただ、その後犯人グループの2人をぶちのめしたのは厳密にはちょっとマズかったんじゃないでしょうか。特に1人目の太ったメガネ男については、相手から何らかの攻撃の意思を見せる前に蘭のほうからぶっ飛ばしにいっていますから、正当防衛や緊急避難で免責される前提を欠いているのではないでしょうか。2人目の男については、棒状のものを構えながら「剣道の大会でなあ...」と口走っていますから、一応攻撃意思も認められ、それに対し素手で対抗している蘭の行動は免責されそうですね。

2.増上寺から鐘を鳴らしたコナンの賢さ

さて、コナンは音が1秒間に伝わる速さを利用し、探偵事務所と増上寺の2地点からの現場の距離を調べました。これにより、図形的には大きな2つの円の交点となる2地点に現場が絞られます。このあたりのコナンの手際はさすがですね。電話やネットの回線逆探知が使えない状況下で、相手の居場所を特定するためには音を使うしかありません。また、さりげなくではありますが、増上寺という場所からわざわざ鐘を鳴らしたこともグッジョブでした。増上寺は東都タワーのすぐそばにあるお寺です。そのため、増上寺を中心とした円と探偵事務所を中心とした円の2つの交点から東都タワーをみるときには、見る方角がそれぞれ異なるようになるのです。もし、東都タワーと探偵事務所を通る直線上に位置しない、少し離れた地点から音を発していたとすると、結果として得られる2地点から東都タワーを見たときの方角が同じとなってしまい、このあとの英理の暗号も無駄になってしまう可能性がありました。前話での手がかりから、東都タワーが現場特定のランドマークになるであろうことは予想できましたから、上記のコナンの増上寺という場所選択はよく考えられた意図的なものだったと評価できます。

3.英理の暗号

次に、英理がコナンたちに送った暗号を見てみましょう。

蟹は,生茹でだけど
お陰で2匹のメカジキが美味しそう…
今夜は,明るいから
外で食べましょうか?

コナンの解読によれば、

「生茹での蟹」 = 半分赤い電気の消えた東都タワー

「2匹のメカジキ」 = ベルツリータワー(東京スカイツリー)

「美味しそう」 = よく見える

「今夜は明るい 」= 満月の夜

と解釈することができ、「東都タワーの電気が半分消えているからベルツリータワーがよく見える」ことから「東都タワーの奥側にベルツリータワーが見える場所」が現場であると特定しました。

この暗号は、一見わけがわからないながらも、コナンたちには即時に意味が伝わるという意味でクオリティの高いものだったと思います。そして、評価すべきは英理の状況把握力と機転の利いたSOSメッセージの出し方ではないでしょうか。上記のように、増上寺と探偵事務所の2地点からの距離をコナンたちが掴んだ今、彼らが次に欲しい情報はズバリ「方角」に関するものでした。そして方角を表すためには東都タワーとベルツリータワーという東京の2大ランドマークの見え方を伝えるのがベストな方法だったのです。さらにそれを犯人らには分からないよう暗号にする必要がありました。英理の側はコナンが2回目にどこから音を発したのかを把握していません。そのような状況下で、コナン側の欲しい情報を推測し、適切に暗号化して伝えるテクニック。さりげないですが、英理のキレ者っぷりがこんなところにも表れていたんですね。

4.小ツッコミ集

今回はさほど大きなツッコミポイントはありません(小五郎や蘭の超人ぶりは除く...)。小ツッコミのみ載せておきます。

①あの状況で英理を見つけられない犯人の目は節穴か!?

「腹なんか鳴らして...」って言われて自分が鳴らしてないなら近くに英理がいると分かれよー。英理の姿丸見えやんけ。

②「こんなところに隠れられるわけがない?」前言撤回しろヒョロ男!

さっきまでは「そんなとこにいるわけねーだろ」って言ってたくせに、ボスが「さっきまでここにいたようだな」と指摘するなり話をそらしてごまかすヒョロ男。恥ずかしかったのかな?

③「メッセージアプリ。メッセージアプリ」ってLINEって言え!

長い。

④やっぱり個人間チャット使おうよ!

元の英理のスマホ端末のアプリでは蘭とのトーク履歴があるはず。となれば履歴のない現在のスマホからのメッセージは即時に英理本人からのものだと判別可能。グループチャットで惑わされるくらいならそっちのほうがマシ!

⑤おっちゃん、その名言は...

「英理の裸を見ていいのは、この世で唯一俺だけだ」...って、聞いてるこっちが恥ずかしいよ...。

5.犯人グループには強盗罪が成立する

さて、今回の刑法検討1つ目は前話で保留していた強盗罪についてです。前話を思い出してください。犯人の1人が英理をスタンガンで気絶させ、取り落としたスマホを盗んでいましたね。これが強盗罪にあたるかが課題でした。条文をみましょう。

【刑法第236条1項】
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。

ここでいう「暴行」とは、反抗を抑圧するに足る不法な有形力の行使をいい、スタンガンをあてることは暴行に当たります。問題は、その暴行が財物を奪うための手段として行われたものであるか否かです。ただ単に暴行の直後にたまたま財物を奪う気になったという場合には強盗罪は成立しません。これについてみると、前話と今回を通して、犯人グループらの最終目的は「スマホのカメラで英理の謝罪動画を撮影すること」だったことが明らかとなり、前話での犯人の発言から英理のスマホを撮影に用いるねらいだったことがわかります。よって、犯人らは英理に反抗を抑圧する程度の暴行をはたらき、それによってスマホを奪ったといえるため、結果として強盗罪が成立するのです。

6.犯人グループに強制わいせつの未遂罪が成立するか

それでは今回の法律検討のメインに入りましょう。小五郎の忍者的立ち回りのおかげもあり、英理は「素っ裸に」されずに助けられました。犯人グループのボスはクライマックスで、わざわざ「本当は素っ裸で謝罪する映像が撮りたかったが...」と今回の動機を述べています。これらは犯人グループ全員に共通の犯行目的だったようですが、果たして彼らに強制わいせつの未遂罪は成立するのでしょうか。

まずは条文です。

【刑法第176条(抜粋)】
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。

また、179条により同罪の未遂も罰することがわかります。

さて、まず相手方を「素っ裸にし」、動画を撮影することが同条にいう「わいせつな行為」に当たることは問題ありません。

しかし、犯罪の成立要件の1つである「故意」に関して問題があります。刑法にいう「故意」とは、単なる自己の物理的行為に対する認識とは異なります。強制わいせつ罪に関していえば、故意の成立のために犯人に「性的意図」が必要か否かについて争いがあるのです。

これに関して、最高裁の古い判例(最判昭45・1・29)は、次のように判断していました。

強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立つているところを撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない。

つまり、最高裁は強制わいせつ罪の成立には性的意図が必要であると言っていたのです(必要説)。ところが、昨年になって最高裁は上記の判例を変更する判断を下しました(最判平29・11・29)

刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。

この最高裁の判例変更以前からも、下級審レベルでは性的意図不要説と読めるような判断が下されていました。「強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべき」との最高裁の考え方は、性犯罪の保護法益の考え方とも合致する妥当なものだといえるでしょう。

今回、犯人グループらは上記の目的のもと英理に暴行を加え、脱出のできないビル内に連れ去っていますから、強制わいせつの実行の着手があったことは十分認めてよいでしょう。そして、以上のように強制わいせつ罪の成立には性的意図は不要ですから、彼らが同罪の未遂を問われる余地は十分あるという結論になります。

性的動画の撮影・公開という行為には、他にも名誉毀損罪や暴行罪、リベンジポルノ防止法違反、また強要罪などの成立の可能性があります。しかしこの中で未遂が処罰されるのは強要罪のみであり、その法定刑は強制わいせつ罪よりも小さくなっています。そのため、今回の未遂事例で犯人らを強制わいせつの未遂罪に問えるか否かは大きな分かれ目だったのですね。

7.まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。30分のアニメコナンのストーリーの中にも、最高裁の判例変更というとても重要な法的要素が潜んでいたのですね。コナンはミステリーや犯罪が主題となっているアニメなので、どうしても刑法的な検討が多くなってしまいますが、過去には民法の親族法が犯人の動機の推測につながるような面白いストーリーもありました。今後また面白い法律問題が出てきたらバッチリ解説していきたいと思います(興味がありましたらマガジンをフォローするか、ブックマークを是非お願いします!)。

とりあえず、小五郎と英理のラブラブっぷりに乾杯!

次回:第903話「似た者同士が犬猿の仲」http://www.ytv.co.jp/conan/trailer/
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次回もお楽しみに!!!

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