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『五つの季節に探偵は』by逸木裕
何かに熱中することのない榊原みどりが、あるきっかけから探偵をやることになり、隠された謎を暴くことに熱中していく短編集。とてもよかったのでシリーズ化してほしい。
イミテーション・ガールズー2002年春
みどりの高校時代の話。
みどりが、スクールカーストの上位から転落したクラスメートから探偵を頼まれる。「クラスの女王の弱みを握ってほしい」
謎を探っていくうちに、真相を突き止めるとともに、自分の才能に気づく。
何事にも熱中できないというみどりと自分が重なることがあり、「探偵」に出会えたみどりがうらやましい。
竜の残り香ー2007年夏
みどりの大学時代の話。みどりの友人が持っている貴重な香料の龍涎香が無くなる。調査を頼まれて犯人を突き止めるが、それは知られたくない秘密を明らかにするものでもあった。みどりは、謎があれば容赦なく暴き立てるしかできず友人も傷つけてしまう。
香道について全く知らなかったが、和歌を主題に香りを組んで当てる組香はとても優雅なもの。香道=香り当てと思っていたが、そんな簡単なものではなく、いろいろな文化を知るための入り口になるものだと思った。やってみると面白そう。
開錠の音がー2009年秋
父が経営する探偵会社の探偵となったみどりの話。元カノからストーカー被害にあっており、自転車のカギが壊され、金をとられたので調査をすることに。ただ、元カノは犯人ではなかった。じゃあなぜ、自転車のカギが壊されたりしたのか。
謎を暴き立てるときのみどりの危うさが明らかになる。
スケーター・ワルツー2012年冬
みどり休暇中のはなし。
軽井沢で休暇中カフェバーでピアニストの尚子と知り合い意気投合する。尚子の過去の話を聞くことになる。話を聞き終わると謎に気づいてしまい、暴いてしまう。みどりは、傷つけてしまったことを悲しく思い立ち去ろうとするが、尚子の力強い姿を見て救われたのではないか。
ゴーストの雫ー2018年春
探偵会社のみどりの後輩の須美要(すみかなめ)が主人公の話。
要は元とび職だが腰痛により探偵に転職。「探偵の仕事は建物が立たないこともある」いなくなった彼氏の調査を依頼されるがうまくいかない。みどりとともに調査をすすめるなかで、要の中のとび職への思い、とび職を辞めることになった時の気持ちに共感できた。仕事で理不尽な気持ちになった時と重なり要に肩入れしてしまった。
みどりはいつものように冷酷に謎を明らかにしようとするが、要は犯人に寄り添い、前を向こうするのを手伝う。
要はみどりの冷酷さをうまくフォローできて、よいコンビになりそう。この2人の長編を読んでみたい。