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「従業員に営業する」と言う視点のすごさ
ヒト・モノ・カネと言うけれど
日々のコンサル業務の中で、最も最初に行う作業がVRIO分析です。
今回はマーケティングの話ではないのでVRIO分析の詳細について省略しますが、簡単に言えばリソースの整理で、自社がどんなリソース(資源)を持っているのかを洗い出す作業を最も最初に行います。
このリソースには、もちろん「生産設備」や「商品」、「資金力」なんてものが入りますが、特に重要なのが「経営者」と「従業員」、そして「社風・文化」です。
つまり、ヒトです。
生産設備や資金力なんかは、すぐに目につくわかりやすい項目ですので、余程過剰設備や資金が底をつきそう!と言う事でもなければ、VRIO分析の段階ではあまり掘り下げません。(無形なソフトウェアの無駄なんかは、意外と緊急事態だったりすることもありますが)
経営者=営業マン、と言う事実
経営者の方の仕事と言うのは実に様々で、(私みたいな)一般人からすれば「経営者=優雅な生活」、「経営者=上司がいないからノーストレスで自由!」みたいなイメージがあるかもしれませんが、仕事をする中で様々な経営者の方と触れ合ってきた感想とすれば。
経営者=孤独と重圧の中で戦う営業マン、です。
上司がいないという事は、相談する相手も、責任を取ってくれる人もいないということです。
もちろん部下と相談することはできますが、結局最終判断は自分で行うことになりますし、その帰結の責任も全て自分が被ることになります。
それが少しだけならいいのですが、24時間365日、ありとあらゆる全ての事象が自分に降りかかってくると思えば、そのストレスたるやもの凄い負担となっています。
結局、経営者の方は自分で営業して、自分で結果を持ち帰って、自分で責任を取った方がマシだ!となり、日々経営者自ら営業に走り回ることになるのです。
従業員にも営業してみよう
しかし、企業が大きく成ればなるほど経営者1人で営業できる範囲には限界が来ます。
それに、ビジネスモデル的にBtoC型事業のように経営者の営業効果が限定される業種もあります。
そこで大事なのが、「仕組み化」することと、その「仕組みを運用してくれる人間を育てる」ことです。
日々の営業を行う中で、何故お客様に営業を行うのかと言えばそれは売上を上げるためです。
でも、売上を作ってくれているのは従業員です。(これは営業マン以外でも、生産部門、経理部門、あらゆる業務が無ければ会社が回らないという意味です)
つまり、お客様も従業員もお金を運んできてくれる存在であることは変わらないのです。
お客様・従業員=ヒトがカネを生む、もしくは運んできてくれるという事ですね。
なら、従業員に営業したって良いと思いませんか?
営業の基本を振り返ってみよう
そこで営業の基本に立ち返ってみたいと思います。
マーケティング視点から言えば、営業=価値提案です。
そして、価値とは相手の利益になる、もしくは相手の痛み(問題)を取り除くことです。
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つまり、従業員もお客様も同じ人間ですので、何らかの利益が欲しいですし、何らかの問題を解決したいと思っているはずです。
営業活動をしたことがある方ならわかると思いますが、「この商品買いませんか!?」と言う売り方で成功したことがある人は少ないと思います。
成功する営業マンは必ず、相手の状況を対話や聞き込みなどで調査し、「こういった要望があるはずだ」、「こういった課題を解決したいと思っているはずだ」と言う仮説立て→検証→提案→持ち帰り再提案と言うステップを行っているはずです。
ならば従業員の利益になる提案、従業員の問題を解決するような提案を行えば、もっと会社の利益になってくれると思いませんか?
もちろん、利益になるお客様、利益にならないお客様がいるように、従業員にも利益になる従業員、利益にならない従業員がいます。
その辺は見極めが重要ですが、それも普段の営業と同じです。
従業員の利益が給与とは限らない
ジョブ理論で言えば、人は商品・サービスを通して利益を求めているわけですが、従業員も仕事を通して利益を求めています。
この利益とは、単純に給与のことだけではありません。
今さら当たり前の話になりますが、従業員は様々な目的で日々の仕事に就いています。
その中で、どのような要因をモチベーションに働いているのかは、十人十色で違います。
では、経営者が営業すべき上客(利益となる従業員)とはどのような従業員でしょうか。
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私の独断と偏見ですが、従業員のタイプ(モチベーション)別の離職率と利益率の関係です。
給与を重視するタイプ
所謂一般的な「サラリーマン」。会社に拘束されている時間=給与が発生する時間と考えているタイプ
基本的に「受け身で権利の主張が多い」。それでも、離職するつもりは無いので、言われたことはするので、このタイプの中でも更に優秀な人と仕事が不得手な人の差が大きい。
出世を重視するタイプ
どちらかと言えば承認欲求が強く、肩書などに拘りがある。
仕事のスキルよりも、社内政治で立身出生を目指すタイプでもあり、上司受けは良いが部下受けは悪い。
それでも人間関係の空気を読む力や、仕事を人に任せる(押し付ける?)能力を持っており、パッと見では仕事ができるように見えるので注意が必要。(※プロセルチェックをせず、結果だけ評価すれば優秀な人材が逃げる可能性が高くなる)
社風を重視するタイプ
会社への帰属意識が高く、やる気もある。
ただし、やる気がある=能力があるという訳ではないので注意を要する。
基本的に指示には従うが、自分なりの考えが強すぎて、変な衝突を起こすことも。
成長を重視するタイプ
一番経営者が営業しなければならない人材。
自己成長、スキルアップ、キャリアアップなどの意識が強く、比例して能力も高い傾向にある。つまり、転職が容易なため、上記までの「給与」、「出世」、「社風」に不満があればすぐに辞めてしまう。
金だけ、出世だけ、やる気だけ、と言った3タイプとは相いれないことが多く、表立って自分の能力や功績を誇示することが無いため、上司が汲み取り評価できなければならない。
いかがでしたでしょうか?繰り返しますが、私の独断と偏見です。
それでも、「ああ、こういう奴確かに会社にいるなぁ」と思いませんでしたか?
従業員に適切な営業をするためには
実際には、会社内にある程度の従業員数がいれば、前項のタイプ1~4がほぼ揃っているのではないでしょうか。
そして、注意深く観察すれば、タイプ4の能力が高いことに気が付くはずです。(全力を出していない可能性もありますが)
このタイプ4を発掘するためには、何が必要でしょうか?
それは、細かな「営業」です。
普段皆さんが「営業」する時には、いわゆるご機嫌伺いや顔見せのような、特段の用事が無い時でも、定期的にお客様と接触する機会を設けるようにしているかと思います。
これと同じように、従業員とも定期的に接触してみて下さい。
それも、かしこまった面談日などを設けず、素の状態の従業員を接することができるようなタイミングや場所を図ることも重要です。(このタイミングや場所を図るためにも、現場に顔を出すことが大事ですね)
過去の「通年雇用」や「会社への帰属意識」と言ったキーワードは、令和の今では見ることも聞くこともなくなり、雇用は流動化し、「会社側から居て欲しい、来てくれと言われる従業員」と「会社にしがみつく従業員」が二極化してきました。
そのような時代の変化に合わせて、給与の設定や人事評価、福利厚生も柔軟に変化させていかなければなりません。
前述しましたが、お客様も従業員もいずれも会社に利益を運んできてくれる重要な存在です。決して疎かにせず、日常的な「営業」を欠かさないようにしてみてはいかがでしょうか?
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、マーケティング論の観点から、従業員にも営業することの重要性を解説してみました。
もしよろしければ、もう少しマニアックではない事業計画書の書き方を書籍にしておりますので、ご興味のある方は是非ご一読下さい。