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【ネタバレ鑑賞記録】どうか彼らの行く道が理不尽な不幸に妨げられませんように【型破りな教室】

あらすじ

麻薬と殺人が日常と化した国境近くの小学校。子供たちは常に犯罪と隣り合わせの環境で育ち、教育設備は不足し、意欲のない教員ばかりで、学力は国内最底辺。しかし、新任教師のフアレスが赴任し、そのユニークで型破りな授業で、子供たちは探求する喜びを知り、クラス全体の成績は飛躍的に上昇。そのうち10人は全国上位0.1%のトップクラスに食い込んだ!

アメリカとの国境近くにあるマタモロスの小学校で2011年に起きた実話を描いた本作は、本国で300万人を動員し、2023年No.1の大ヒットを記録。更にアメリカでも限定公開かつスペイン語作品にも関わらず初週5位の快挙をとげ、絶賛の嵐は北米まで広がった。『コーダ あいのうた』に続いての教師役ながら、新たな魅力を発揮したエウヘニオ・デルベスにも注目。

未来を望むことさえしなかった子供たちが、可能性や夢に出会い、瞳がきらきら輝きだす光景に、心打たれる奇跡の感動作が誕生した

公式Webサイトより

よくよく読んでみたら、公式のあらすじで堂々とエンディングのネタバレをしているじゃないか。
簡単に言えば、国内最低レベルの小学校に赴任した一人の教師が、成績を飛躍的に延ばして子供たちとともに成長するという実話を元にした物語。

歳を重ねるにつれて、段々子供たちのひたむきな姿を見ると涙が滲むようになってきた。初めてのおつかいとか本当すぐ泣いちゃうんだから。

勉強なんてどうせ…大人なんてどうせ…と自分の可能性を諦めてきた貧しい環境に生きる子供たちが、学ぶことに興味を持ったり、どうして?と浮かんできた疑問を仲間と話してみたり、自分で調べたり、挑戦したり、夢ができたり、諦めることをやめて前に進んだりする過程を見ていると、
どうか彼らの行く道が理不尽な不幸によって妨げられませんように、どうかひなたの道だけを歩んでいけますように、と願わずにいられない。

映画の中では3人の子供に特にフォーカスが当てられていて、その子たちの役はもちろん、お芝居がとても素敵だった。

パロマ…子供たちの中でも極めて特別な存在。
頭が良いが、父親と二人で貧しい暮らしをしているため、父親からは夢を見たり、未来に期待したりすることを否定され、誰にも内緒で宇宙飛行士になることを夢見ている女の子。
パロマはとにかく聡明で、自らの生活の貧しさや勉強好きであることを同級生から揶揄されても反論せず口を噤んでいる。ひたむきに努力ができるし、夢がある。
しかしその夢を口に出せば父親から否定されてしまうから、正直に話せずにいる。父親も父親で、夢を見たその先でもしも挫折してしまったら…たった一人の娘の心が傷つくことになってしまったら…と心配する気持ちが先走り、娘をがんじがらめにしてしまう。
パロマの最後の表情がとにかく最高。
そこに至るまでに苦しいような腹立たしいような展開もあるけど、それでも最後に見せてくれた表情よりも尊いものがあるだろうかと思ってしまう。

ニコ…海辺のボロい小屋のような家で、ギャングの端くれのような兄と二人で暮らしている少年。学校や勉強を拒絶しているが、次第に学ぶことが好きになり、パロマに好意を持ち、ギャングの道ではなく学校へ通う人生を選びたいと思うようになる。
ニコは反抗期にしては可愛いもので、これはギャングにはなれそうにないよねってすぐにわかるくらいピュアで素直な男の子。
自分の話をまっすぐに聞いてくれる、そのまま変わらなくて良いと認めてくれる、信じて背中を押してくれる先生と出会えたから、どんどん成長していく。
お兄ちゃんも本当は凄く優しくて、弟を真っ当に生きさせてあげたいと願う愛情が伝わってきたからこそ、最後の展開は思わず泣いてしまった。

ルペ…生活のために昼も夜も働く両親に代わり、幼い弟と妹の面倒を見ながら家事もこなしている。哲学の道を志した頃、母が3人目を妊娠したことで、赤子の面倒を見なければならず学校に通えなくなってしまう女の子。
ルペはとても献身的で、家族想いで、心根が優しい。家族のために生きているような日々が、先生の一言で哲学や哲学者に興味を持ち、やがては先生になりたいという夢を持つ。
学校の図書館では、子供に哲学の本なんてまだ早いと門前払いされてしまい、教育者が子供から好奇心を奪ってどうするんだと腹が立ったが、自ら別の図書館へ行き、そこでは子供扱いされることなく、何に興味があるのか、どんな本がいいのか、大人がちゃんと向き合ってくれることに喜びを覚えるルペの笑顔が愛おしかった。
母が3人目を妊娠したことで、自分の今後の人生を、家族の暮らしを、中絶についてを、真剣に考え仲間と共有して悩む姿も勿論印象に残ってる。

それぞれに好きな場面がもっとたくさんあるのだけれど、彼ら3人に共通しているのは、
まだ幼い子どもであるにもかかわらず、最低限の暮らしもままならず、自分のことは全て自分でどうにかしなければならない。贅沢もワガママも言えない。自分たちを守ってくれるべき大人がそばにいない。何もかもが満たされていない子供たちだった。
そんな彼らが一人の大人と出会ったことで、自分のことは自分で決めていいということに気がつけたことが、あのどうしようもなく殺伐とした世界の中での唯一の希望のように思えた。

校長先生のキャラクターもめちゃくちゃ好みだった。学校立て直し系の物語には、ああいう最初は意地悪だけど本当は熱い想いを持ってる真の教育者みたいな存在が必須で、それは世界共通認識なんだな。

子供たちが抑圧のない場所で、きちんと教育を受けられる。清潔な環境で生活ができる。安心して息ができる居場所が確保されている。
それらは全て、親や、周囲の大人や、国が整備するべきことだ。
そんなことを改めて考えた作品だった。

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