はじめてのインハウス弁護士転職活動体験記

法務系アドベントカレンダー2024(https://adventar.org/calendars/9946)6日目の記事になります。

はじめに

 簡単に自己紹介すると、司法修習70期の弁護士資格持ちで、都内の法律事務所2つを経て、金融系の会社でインハウスを3年弱やってきた者です。
 昨年の「法務系アドベントカレンダー」ではは、会社の中で働くってどういうことなんだろう? ということについて、日々思ってきたことをつらつらと書きました。

 で、転職活動をしました(唐突)。

 転職の動機については公開を控えますが、ネガティブな転職ではないということだけ一応申し添えておくとして……とにかく今年転職活動をしまして、今度また別の会社(金融業)でお世話になることと相成りました。
 いろんな会社に書類を出して面接をして……という、一般的な(?)「転職活動」をしました。その時の経験を振り返りつつ、感想などもつらつら書いていこう、というのが本記事のコンセプトになります。

法律事務所に行くか、インハウスに行くか 

 自分は、法律事務所ではなく、民間企業(インハウス)に行こうと決めて転職活動に臨みました。
 法律事務所ではなく企業の中でインハウスとして働く意義(外部法律事務所ではなくインハウスだからこそできること?)みたいなものを自分なりになんとなく見出した、というのが理由の一つとしてあります。もうちょっと具体的に書いてみます。

組織の中にいるからこそできること

 現職において、会社の「中の人」として色々な「外の」法律事務所にお仕事を依頼する中で思ったことですが、基本的に外部法律事務所は依頼者の依頼の枠内で業務を遂行するので、
「依頼者に頼まれていないことはできない」
 んですよね。
 もちろん、顧問先に対して積極的・能動的に提案をして自ら仕事を作り出しておられる弁護士の方もおられるかもしれません。気を利かせてこちらの質問から抜け漏れている点を丁寧にフォローしてくださる先生もいらっしゃいます。
 ですが、外部の弁護士の基本的なスタンスは、「依頼を受けて動く」という意味において、受動的だと思います。
 また、外部法律事務所への相談は基本的には特定の案件や個別の論点について生じるので、その意味で線的ではなく個別的・点的な関与の仕方になると思います。顧問弁護士として継続的に密に関与をしていても、「外」にいる以上はその関与はおのずから限定的にならざるを得ないのでは?と思っています。勿論この点は異論がありうるかもしれず、近年は顧問業務や法務受託、常駐サービスなど外部弁護士の関与の在り方も多様化していると思います。

 一方、組織の中で自分がやってみて感じたのは「主体性・能動性」がより高い、ということです。
 自分がやっている仕事というのは、フロントからの依頼・相談であったり、上長や役員からの指示を受けて、外部法律事務所の知見も活用しつつ、情報を整理してまとめて上司に説明して決裁を取ったり、関係部署に説明して回答したり……というライフサイクルの中にあります。
 「①相談ニーズの発生⇒②相談事項の整理⇒③外部法律事務所への相談⇒④外部法律事務所のアウトプットの内容の咀嚼・整理⇒⑤社内言語に変換した上で社内関係者へ展開する(決裁権限者からの決裁取得、事業部門への回答、会議体等への上程等)」
 
というのが法務対応のライフサイクルだとすると、このサイクルの中で主体的に問題を発見したり課題を拾ったりして能動的に取り組んでいくことがインハウスとして(また、組織の中のプレイヤーとして)の醍醐味の一つだと思います(また、昨年の記事で私は「サラサラな血液になろう」と書きましたが、このサイクルを滞りなく回すことが組織人としての価値につながります)。「最近役員がこのトピック関心あるみたいだからちょっと調べて報告したい」と言われたのであるトピックについて調べて内容を整理した上でプレゼン資料を作って報告したら経営陣からも好評だった、みたいな経験をすると、「あ、これ楽しいな」となります。
 また、「外部法律事務所への相談」というのはサイクルの一部分にすぎないことも分かります。そもそも上記①~⑤はかなり単純化されていて、実際には複数の社内関係者・関係部署が絡んだ複雑な状況があると思います。こうした「社内調整」をムダと忌避する向きもあるかとは思いますが、一定規模の組織になれば各部署がそれぞれの機能・役割を持って動いている以上、その調整を行うことはある程度避けられないのではないか、という気もしています。
 そういった全体像があった上での「外部法律事務所への相談」なので、その全体像を抜きにして個別の業務の外注要否・可否を論じると目線がズレる気がしています。 

法務担当者の仕事ってこんな感じ?

 さらに、先述の法務対応のライフサイクルは、それ単体で閉じるものではないと思っています。
 このライフサイクルは個別個別の案件に応じて発生することが多いですが、その過程において「個別案件において得られた知見・ノウハウの蓄積」や「社内課題の発見」といった形で一般化・抽象化するプロセスに繋がっていきます。この「一般化・抽象化」には2つの意味があります。

 1つは「法務部門が社内の案件を部署横断的に横串通して見ることで、個別案件から得られたノウハウ・知見を横展開できること」です。これは、法務部門が独立して存在する意義の一つではないかと思います。
 ナレッジマネジメントにおいてはナレッジをgiveする側にナレッジ共有のインセンティブが無いと上手くいかないと言われますが、個別の事業部門にそのようなgiveのインセンティブがあるのかどうか……?ということを考えると、そのような「個別を一般化して横展開する」ことに1つの存在意義を見出す部署があってもよさそうな気がします。

 もう一つは「個別案件において発見された課題についての対応方法・解決策を社内ルール等に落とし込んで体制・仕組みを作ること」です。たとえばある案件で「この国ってこういう規制があるけど、今までは知っている人だけが属人的に対応していてたまたま何とかなっていただけで、ちゃんとルールとして事業部門に周知しないといけないのでは?」みたいな発見を通じて、新しくガイダンスを作ってみたり、ルールを改訂してみたり、というのも重要な役目だと思います(え? そうすると気付いた人ばかり仕事が増えていくんじゃないかって? いいところに気が付きましたね…………)。
 その際には個別案件における妥当性のみならず全社的な視点での全体最適を考えることも求められ、他部署との連携も大事になってきます。たとえば、海外の法令に沿ってルールを作ってはみたけど現地の実務的にはあんまり一般的じゃなくて現場から反発を食らう……みたいなこともたまにあるわけで、「事前にあそこの部署ともっとすり合わせしとかないといけなかった」と後から反省することも。勿論、法令違反はできないですが、あまりにも実務的にワークしない・事業を阻害するルールを押し付けるのは、法務の目線だけ見れば正しい最適解でも、事業の観点を置き去りにしている点では片手落ちかもしれません。
 
 このような、社内のルールや体制整備に深く寄与していくことも、組織内にいるからこそできることではないかと思います(勿論外部の専門家の協力を得ることはあるにせよ、です)。



個別対応と一般的な体制・ナレッジの整備を常に行ったり来たりする

 長くなったので趣旨を2つにまとめます。

  1. 社内における法務業務は経営、決裁権者、関係部署、外部法律事務所等とのコミュニケーションが連なったサイクルの繰り返し。担当者はその中で主体的・能動的に取り組むことができる(そのように期待される)。一方、そのサイクルの中で「外部法律事務所への相談」という形で切り出されるものはさらにその一部分の一部分である(良い悪いではなくて役割分担の問題として、そうであると思います)。

  2. 法務業務は個別の論点に対する回答のみで完結するものではなく、①社内における部署間の役割分担・決裁権限を踏まえて必要な社内コミュニケーションを取ること、②個別の対応の中で得られた知見やノウハウを適切に社内に還元していくこと、などが必要である。

 以上は、たった数年現場でやってみた一個人の感想にすぎませんし、会社の規模や成熟段階によっても変わってくると思いますので、一般化はできないと思います。ただ、経営目線での「法務かくあるべき論」も大事ですが、現場の目線も大事にしてほしいとも思います。

 こうして考えてみると、確かに一つ一つの仕事自体を切り出してみてそれを外注することはできるのかもしれないですが、全体的・中長期的な目線で有機的に連関するサイクルとして法務業務を捉えたときに、どこまで外注するのが最適なのか、という点は意外と難しい問題だと思います。
(リーガルフィーと予算の兼ね合いでワークするかどうかも気になりますし、大規模な組織になればなるほど社内の仕組みに外部のモジュールを取り込むのは大変じゃないかな、とも思ったり。あとはノウハウが属人化しないように一層工夫しないといけなさそうですし、クオリティコントロールを誰が担保するのかという問題もあります)
 ですので、法務業務の外注化ニーズは今後も高まっていくのかもしれませんが、私は自分なりに「社内にいる人間としての役割」を上記のとおりに見出しており、そこに面白さも感じたので、次もインハウスをやりたいなあ、と志向した次第なのでした。

 なお「この役割は弁護士じゃないとできないか?」と聞かれれば答えはnoです。別に弁護士資格が無くてもできます。それを分かった上で、「組織の中における役割を果たすこと」に意義を見出せるかどうかが、「インハウスをやるか法律事務所でプライベートプラクティスをやるか」の一つの分かれ目になるかなと思います。

子育てとの両立のしやすさ

 インハウスを選んだ理由がもう一つあるんですが、一言で言ってしまえば「ワークライフバランス」という、身も蓋も無い話にはなってしまいますが、子どもが産まれたばかりの自分にとっては至上命題でした。
 もし法律事務所にまた戻った場合、自分の年次的におそらくパートナーではなくアソシエイトになるわけですが、企業法務系事務所だとどうしても「沢山ビラブルをつけてタイムチャージをいっぱい稼ぐ」ことがアソの主要な役割になってしまうのではないかと思います。異論反論はありうるかもしれませんが、1日の可処分時間が有限な中で、その一定時間を家事育児に割くことを考えると、おのずから業務に充てられる時間にも制約が生じますから「いっぱい稼働してタイムチャージを稼ぐ」という働き方とはやっぱり相性が良くないなと思いました(なので法律事務所でバリバリ働きつつ育児もされている方は本当にすごいなと思います……)。

閑話休題。

すみません、話が長くなってしまいました。
ここから先は、具体的な転職活動のお話をさせてください。
目次を再掲します。


求人の探し方

 とりあえずビズリーチを使いました。レジュメを登録しておけば色んなエージェントや企業からメッセージが来るので、その中で気になったエージェントとオンラインで面談してみたり、気になった企業とカジュアル面談をしてみたりしました。
 転職エージェントは正直、玉石混交なので、ビズリーチにおけるエージェント評価がA以上の人と決めていました。ただ、S評価のエージェントでも、話してみると、「業界の知見はあるのかもしれないけれど、法務や弁護士の転職には全然土地勘が無いんだろうなあ……」という人もいたので、本当に人によりけりです。
 企業とのカジュアル面談は非常に有意義で、これはビズリーチ使っておいてよかったなあと思うポイントでした。というのも、カジュアル面談で先方の法務の方とお話しする場合、同じ法務業務に従事している人間なので、地盤を共有している者同士の共通言語で話せることが多いのですが、一方で転職エージェントの方は必ずしも法務業務の経験者ではないので、エージェント経由だと欲しいメッシュ感での回答が得られないことがあります。ですので、カジュアル面談にも、人事の方が出てくる場合と法務の方が出てくる場合と両方ありますが、特に後者がとても有意義に感じました。
 また、LinkedInも採用活動によく使われているようです。外資系の企業も求人を載せていますし、実際に私の体験としても、外資系のエージェントや企業からメッセージが来ることもありました。

会社選び

 結論、自分が選考を受けたのはいずれも日本の大企業でした。
 給与水準が一定レンジを超えている企業を選ぼうとすると、選択の幅はそれほど大きくなかったというのもあります。

既にインハウスがいる企業がいい?

 あとは、「弁護士の採用実績があり、ある程度『先例』がある会社の方がいい」という考えもありました。1人目のインハウスとして飛び込む、あるいは1人目法務としてスタートアップや中小企業に飛び込む、という選択肢も勿論あると思いますが、自分は「先人」がいる場所の方がよいなと考えていました。
 「その会社が「社内弁護士」の役割定義をきちんとできるか(有資格者に過度な期待を寄せていないか)」、「今後のキャリアパスについて一定の先例がありある程度イメージが持てるか」と言った点を考えると、弁護士有資格者を採ったことのある会社(かつ今も在籍している会社)の方が自分は安心して入っていけそうだと考えた次第です。
 自分で一からポジションをガンガン築いていきたい、と考える人には異なる選択肢もあると思いますが、自分はあまりそういうタイプではありませんでした。
 ただ、インハウスの人数がものすごく多い会社だと、逆にその会社の中で自分のポジションをどう築いていくか(社内競争)を考える必要もあるんだろうか? と思うところはあります。

業界をどうするか?

 自分はそろそろ自分のキャリアの方向性にある程度目星をつけないといけない年次なのですが、一方で、転職エージェントの方からは「異業種転職もまだイケる」というようなことも言われました。
 自分は「次も金融関係がいいだろうなあ」と何となく思っていましたが、
決め打ちしすぎる必要もないかと考え、金融以外の業界も受けました。ただ、結局自分なりにしっくり来たのは金融だったなあ、と思います。
 その事業によって関連する契約の種類も違えば規制の種類も違いますし、また会社における法務部の位置づけも微妙に違います(たとえばメーカーと金融機関を比較すると、法務の所掌範囲・役割分担が結構違うなと思うことがあります。もちろん会社の規模にもよりますが)ので、異業種に転職をする場合は、特に法務の所掌範囲・業務内容を現職とよくよく比較する必要があると思います。
 自分のこれまでの経歴が転用しにくい場合には、先方がどの程度ポテンシャルを評価してくれるのかがキーになってくると思われます。これは年齢や年次によって可否が分かれてきそうです。
 言うまでもないですが、業界によって給与水準は変わってきますので、その意味でも業界選びは重要になってきます。

面接で聞かれたこと

1.これまでのキャリア

 大体どの面接でも、まず最初に自己紹介も兼ねてこれまでのキャリアを簡単に教えてください、という質問から始まっていた気がします。先方はだいたい履歴書と職務経歴書を手元に持っていてそれをベースに聞いてくるので、特に職務経歴書に書いた内容は深掘りされることが大前提になってきます。
 基本的には職務経歴書に書いてあるような内容をかいつまんで話すことになりますが、自分の場合はこの転職活動の時点で3社目という経歴だったので、どういう考えのもとで転職を重ねて今に至るのかを淀みなく語れるようにしました。
 時系列に沿って整然としたストーリーを述べること、そして自分なりの語り口(ナラティブ)で「どういうことを考えて今日までやってきたのか」を語れるようにしていました。「1社目はこれこれこういう法律事務所に入ってこんな感じの業務の経験を積みましたが、その中で~~~という点に課題を感じ、2社目に移籍しました。2社目では~~~~という経験を主に積んでまいりまして云々かんぬん……」みたいな感じです。
 当たり前ですが、過去の転職の理由は必ず聞かれます。ネガティブなことを言うのではなく、「自分なりの問題意識を持って転職をしたのだ」ということが伝わる説明ぶりになるよう工夫しました。
 その他の個別の業務については、その会社に応じて刺さりそうなポイントを中心にかいつまんで喋るくらいかな、と思います。ただ、過去の業務について先方からエピソードトークを求められることがあります(辛)。具体的な案件の中で苦労した経験とか、課題を乗り越えた経験とか、そういう感じのやつです。どういうエピソードが求められるかはケースバイケースなのでしょうが、テンパらないように、なんとなく過去の経験を振り返ってみて「こういうことあったな」というのを引き出せるようにしておくとよかったのかなー、と省みるところです。

2.志望動機

 志望動機はちゃんと考えた方がよかったです。反省点。いや、当たり前なんですけど。
 今回の転職活動で、自分は都合7社の選考を受けたのですが、子どもが産まれた直後だったこともありまして、7社分の面接対策をするのは大変というか、無理でした(言い訳)。書類で落ちることもあるので多めに候補を出すのがセオリーなのかもしれませんが、幸運なことに書類は全部通ったものの、その後の面接対策に時間を割く余裕が無かったです。
 ある企業は、法務部門の面接がすごく良い感じで終われて無事に最終の人事面接に進めたのですが、人事から「志望動機が無いに等しい。長期的に働けるビジョンが見えない」とお祈りを食らいました……。なので志望動機はやっぱり大事なんですね(気付くのが遅すぎるだろ。社会を舐めるんじゃない)
 ここでいう「志望動機」とは「なぜ『その企業』を志望するのか」ということなので、その企業にテーラーメイドされた動機をきちんと自分で言えるようにしないとダメなんですけど、たとえば「その業界4位の企業を受けるときに『なぜ(1位~3位ではなく)その企業なのか』を言えないとダメ」ということでもあります。うーん、むずかしい。
 その企業の決算資料、有価証券報告書、Annual reportなどを読んで、その企業のPurpose・Mission・Valueや重点業務分野などを把握したうえで、自分のこれまでの経験・実績やこれからやりたいこととを結びつけ、君だけの最強の志望動機を作り上げる必要がありそうです。自分は選考を受ける企業の開示資料やニュースは事前に読むようにしていましたが、それと志望動機をあまり結び付けられていなかったので、そこは反省点です。

3.今後のキャリアの方向性

 選考の中で、かなりの高確率で聞かれるのが「今後のキャリアの方向性をどう考えていますか」という類の質問です。具体的に言うと、いわゆるマネージャー/管理職の方向に行くのか、プレイヤー/専門職の方向に行くのか、みたいな話です。
 「そんな先のことは分からん」というのが正直な感触ではありますが、インハウスに行く以上は避けて通れない問題だと思います。
 法務業務の専門性を高めることと、マネージャーとしての業務に足を突っ込むことは、全然別のゲームなんじゃないかという気がしていますが、汎用性がより高いのは後者だろうと思います。また、今後ちゃんと昇給していくかどうかを考えると、その会社の給与テーブルにおいて専門職を管理職同等に評価してくれるかどうかという問題もあります。
 正解はないですが、「マネジメントに片足突っ込むこともありうるという前提で考えております」みたいなもにょっとしたことを面接で答えました。うーん、でも未来のことはわからん……。

4.最終的な判断基準

 オファーを複数の会社から得た場合に、どのような基準で受諾を決めますか、という質問も多かったです。自分の中で選ぶ基準はしっかり決めておく必要があります。自分の中では大前提として「待遇(給料)」が譲れないラインとしてありましたが、その他だと以下のような点を考慮要素として持っていました。

  1.  その会社の文化・雰囲気に自分がなじめそうか(面接を通じてお会いした方から判断するしかないのですが、やっぱり会社ごとに雰囲気が違いますし、面接の短い時間からだけでも何となく伝わってくるものがあります。第一印象で「なんか違うな」と思った会社にはやっぱりハマらなくて一次でサクッと落ちたりします)

  2.  子育てと両立する働き方ができそうか(リモートワーク可否、フレックスタイム制有無、他の方の実例、など)

  3.  得られる経験、今後のキャリアパスがイメージできるか(極端な例ですが、ずっと契約書レビューばかりやってるとか、所掌が限定されすぎてしまうとかだと困るな~という話です)

こちらから聞くこと・確認すること

1.具体的な業務内容

 ざっくりしたことは求人票に書いてありますが、イメージがつかめるよう、より細かく具体的に聞くようにしていました。
 契約書レビュー、日常法律相談、大きなプロジェクトもの、社内体制整備……色々なトピックがあると思いますが、どういうものがあるか、量はどのくらいか(ざっくり月何件くらいあるか)、割合・比重はどれくらいか、といったところのイメージを聞いていました。
 また、各業務における決裁フローや、日常業務における担当者の裁量はどのくらいかも、日々の業務イメージを掴むうえで重要なので聞いていました。法律相談は回答にあたり全件上司の要決裁とするカッチリしたところもあれば、もうちょっと担当者に裁量を与えているところもありました。
 あとは、業務の中でどのくらい英語を使うかも聞いておいた方がよいポイントかなと思います。

2.事業部と法務部の役割分担・権限分配

 個別の案件における法務の関わり方、役割分担について確認していました。
 現職は良くも悪くも部署間の役割分担がハッキリしている縦割り組織であり、法務が関与すべき場面も線引きがしっかりなされていました。それと比較した時に、法務としてどの程度の関与の在り方が期待されるのかは、仕事の仕方に関わってくるので、必ず聞いていました。
 答えを聞いてみると、法務としてより積極的・能動的・主体的に関与したいという思いのある会社さんが多かったイメージです。また、経営陣が法務により積極的な役割を期待しているという声も聞かれました。

3.外部法律事務所との役割分担

 どこまで内製化し、どこまで外注するか、という目線感も聞いていました。おおむね共通していたのは、高度に専門的な内容や紛争対応は外部法律事務所に外注する、という点だったかなと思います。バンバン外注してます!というところは意外と無かったなと。
 規模が大きくてインハウス弁護士もたくさん抱えている企業では、より内製化し部署の専門性を高めたいと考えている、というようなお答えもありました。
 ともすれば結構「専門性」に魅力を覚えがちではあるのですが、でも「専門性」だけなら外注できちゃうよな、とふと思ったのでした。

4.弁護士資格者に期待する役割の有無

 弁護士資格を持っている場合になにか特別な役割を期待されるのか、それとも、特に資格の有無でなにか役割に違いがあるわけではないのか、という点も重要だと思います。これまで話を聞いてきた中ですと後者の方が多かったかなというイメージです。
 その会社が弁護士有資格者を採り慣れているかかどうかも意外と重要なのですが、求人票に有資格者の有無は書いてあることが多いので、事前にチェックしておくとよいかなと思います。

*なお念のためですが、ここで私が書いているのはあくまでも「先方が『弁護士資格』というものをどう捉えているか」について事前に目線合わせをしておいたほうが良い、という趣旨に尽きます。
 最終的には、あくまで「組織にどのような貢献ができるか」に収斂するのであって、資格の有無はぶっちゃけて言えばさほど大した要素にはならないと考えています。
弁護士の転職に関して、渡部友一郎先生は「資格の売り込み」はやめた方がよい、という趣旨のことを述べておられますが、本当にそのとおりだなと思います。

多様な考えや方法論があると思いますが、私が皆様にお伝えできるのは「資格の売り込み」だけは本当に止めたほうがいいですよということです。
弁護士資格は、書類審査が通った次点で、消尽していると考えたほうが安全です。

「見送られ候補者に留まるか、強い候補者になるか」
― 弁護士の組織内弁護士(インハウス弁護士)への転職(https://inhouselaw.org/inhouse/archives/1696

5.想定キャリアパス(昇格、部署移動、留学など)

 法務以外の部署への異動があるのか、どのくらいの年次で管理職に上がることが期待されるか、留学制度の有無、などはキャリアパスを考えるうえで聞いておいた方がよいと思いました。
 特に弁護士有資格者が既にいる会社であればその人たちがどういうキャリアを歩んでいるか(他部署への異動、留学の有無)を是非教えてもらうとよいと思います(インハウス弁護士が多い会社さんで、「社内弁護士が実際に入社後どのようなキャリアパスを歩んでいるか」について資料を作って提示してくれるところもありました。これはイメージが湧いてとても助かったのを覚えています)。

評価いただけたポイント

 最終選考まで進んだ会社には、自分の評価ポイントをエージェント経由ないし直接聞いてみました。
 結果、ざっくり以下のようなポイントを挙げていただきました。

  1. 会社組織・文化にフィットしそう

  2. 他部署と上手にコミュニケーションが取れそう

  3. 色々な経験をしている

  4. 質問に対する受け答えがスムーズ

 1.と2.は結局「面接を通しての印象」に起因するソフト面の評価で、これまでのキャリア・経験を通じたハード面の評価ではないです。自分のキャリア・経験がそれほど充実しているわけではないことを考えればむしろ順当とも思います。自分は現職含め3社を経験していますが(法律事務所2つ、金融機関1つ)、その経験を通じてなんらか得意分野・専門性を獲得しているかといえばそうでもないので。
 インハウスとして転職する以上は、「会社の中で有用なスキル」を押し出す必要があるので、私は「他部署も巻き込んだプロジェクトの経験」や「チームで協働した経験」などもアピールするようにしていました
 究極的には、いわゆる「専門性」は外注しようと思えば出来ますが、社内においてコミュニケーション(with 上司、同僚、他部署、外部法律事務所、など)を取りながら業務を回していく営みは外注が難しい(と私は考えていますが、異論はあるかもしれません)です。ゆえに「この人ならスムーズに回してくれそう」という評価が得られると、結構プラスになるんじゃないだろうか? と思うところです。
 冒頭で「組織の中にいるからこそできること」を滔々と語りましたけれども、「外部の専門家」じゃなくて「中の人」として一緒に歯車を潤滑に回し てくれる人が求められてるのかなあ、などと思ったりしました。

 3.(色々な経験をしている)はもっと意外な評価でした。自分は短期間で転職を繰り返している方の人間ですが(実際、人事面談でその点が気になると指摘されたこともあります)、その会社は人材の流動性がかなり高いのであまりネガティブな印象にならなかったのかな、と想像しています。日系企業だと珍しいかもしれませんが、会社のカラーによって受け取られ方も変わる、というのは1つの発見でした。

 4.(質問に対する受け答えがスムーズ)についてですが、企業によっては1回の面接に5人も6人も出てきて順にかわるがわる質問が繰り出されるところもありました。気分はまるで百人組手ですが、そこで、つっかえることなく淀みなく回答ができたのはプラスに働いたみたいです。
 これに関して思うのは、事前に質問を想定しきるのは難しく、その場で考えるしかない質問も多い中で、いかにスムーズに回答できるかは「日々どういうことを考えてきたか」にかかってくるのではないか、ということです。
 本記事の前半で、業務の中で「個別」と「一般」を行ったり来たりしていて……ということを書きましたけれど、これは「具体」と「抽象」に言い換えてもよいのですが、個別の業務で得た具体的経験を自分なりに抽象化したうえで蓄積しておいたり、日々の業務で感じた問題意識を自分なりに言語化しておくことが、問われたことへのスムーズな回答に繋がったのではないか、という気がしています。
 考える必要のあることないことをあれこれ考えてしまうタイプの人間ですが、案外そういうことが役に立つわけですな……。

英語はとりあえずTOEICでいいんじゃないか

 転職活動においては、当然、英語ができた方が幅が広がるのは間違いないと思いますが、日系企業に行くならTOEICのスコアだけあれば十分だと思います。
 TOEICという試験に対する評価は、世の中色々ありますが、もう置いといてよいと思います。日系企業の転職活動というゲームに的を絞る限りにおいてはTOEICのスコアをとりあえず上げるが最適解なんじゃないかなと思います。
 応募要件として「TOEIC●●以上」という要件を設けている企業は結構多いイメージがありますが、色々な求人を見てきた中での個人的なざっくりした体感でいえば、800以上あると割と安心ですし、900超えていれば日系ならほぼ足切りは無いしなんなら「英語ができる」評価にさえなりうる(もちろん実態はお察し)って感じです。

*総合商社とか目指すならちょっと話変わってくるのかもしれませんが、すみません、自分は総合商社を受けていないのでそこはノーコメントで……。

 10,000字超えのクソ長記事を最後までお読みいただきありがとうございます。「長いから飛ばしたわ~」という人も右上の「×」をクリックせずにここまで来ていただいてありがとうございます。
 自分は7年間で合計3社を渡り歩いてきたので、まあ転職回数は決して少なくない方だと思いますが、これといった専門性や飛びぬけたスキルがあるわけでもない中でどうやって上手く転職するかは悩みどころでした。法務の転職市場は売り手市場の傾向が続いているようですが、一方で社内弁護士の人数はどんどん増えていることを考えればむしろ候補者間の競争は激化していると見ることもできそうです。

 私のようなキャリア弱者にとっては、
「大手や外資系の事務所でバリバリやってきた人に専門性で勝負したって勝てないし、ポテンシャルでは新卒の域をとうに脱してしまっている。そんな中で、これまでの自分のキャリアと経験を持ってどこでどう勝負すべきか?」
 という問いが常に付きまとうのですが、転職活動してみて思ったことは別に必ずしも「専門性」だけが勝負のしどころではないということでした。会社の「中の人」として周りと協調しながら課題を解決し会社に貢献してくれそう、と思ってもらえることの方が案外重要なのかもしれませんね。

 以上です!
 明日はいっちゃんさんの「街弁事務所の事務員が思う「企業法務」」とのことです!



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集