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時をかけてほしかった高瀬くん

「時をかける少女」が苦手だ。

実写ではなくアニメ版の方で、正直自分が今まで観た映画の中でも「嫌い」ランキングを作るなら堂々の1位である。


また、自分は本作を作った細田守監督の「サマーウォーズ」も自分のワーストランキング2位なので、同氏の作風が全体的に肌に合わないのだろう。
ただ、賛否両論だった「バケモノの子」は世評に反してあんまり嫌いじゃない。


自分が何故「時をかける少女」が苦手かというと、映画自体の出来が悪いという訳では全くない。
むしろアニメ作品としてのクオリティが非常に高いことは自分も承知であり、そこについては世間の評価と一致している。

ただ、映画に存在する1つの要素が自分の中で全てを失望させた。それが、この映画中盤で登場する「高瀬宋次郎」というキャラクターの描き方、そしてその顛末である。

自分が稀に飲み会などでこの話になり、この映画が好きという方に「高瀬くんって覚えてる?」と聞くと大体「そんなキャラいたっけ」と返される。この点も自分がこの作品を嫌いにさせる理由を強化させる。

それも納得ではある。
彼はこの作品のメイン3人組と特に繋がりがあるわけでなく、クラスメイト以上でも以下でもない存在なのだ。
昼休憩時にはヤンキーからからかわれている所謂「スクールカーストの下の人間」である。

しかしながら、監督はこのキャラに何か恨みでもあるのかってくらい彼を追い込む。

正直この映画を観たのは10年前とかでかなり曖昧な知識になるので以下のストーリー説明で訂正・補足点があったら指摘してほしい。
とてもじゃないが自分はこの記事だけのために時かけを見直す苦行のリープを繰り返せない。


主人公の少女、真琴は未来を変えるため作中タイムリープを繰り返す。

その中で、ミスではあるが真琴が調理の授業において発火させてしまう。ただ真琴は自身のミスをタイムリープにてそのミスを高瀬になすりつけてしまうのだ。この時点でヒロイン-5億点。

結果、元々いじめられキャラだった高瀬であったが、クラスの中でも更にそういった要素が強くなってしまう。
ある日、昼食時にクラスのヤンキーもどきにその点で因縁をつけられ、
ラーメンを丸ごと頭にぶっかけられるといういじめを受けてしまう。

そして、高瀬は叛逆する。
学校の備品の消火器をバイオハザードよろしくヤンキーにぶちまけ、それによる被害が学校中に行き渡る。

我を失った高瀬は、その他のクラスメイトにも攻撃的になり、メイン登場人物男子の1人に思いを寄せている女子(この子超可愛い)が仲裁の言葉をかけた際消火器を投げつけ怪我をさせてしまう。

出番、以上!


その後真琴とメイン男子のイケメンが色々紆余曲折あって最後でお互い素直になっていちゃこらして奥華子の曲とともにチューして何かお互いカッコいいこと言う応酬あって幕を閉じる。
世間ではこのシーンがすごい感動されているらしい。自分もこのシーン単品で見たら多分ええなー、と思うかもだけれど、


いやいや、集中できるか!


高瀬君のその後、諸々はノータッチで全く描かれることなく、話はタイムリープ恋愛ものに戻り1時間お話が続いていく。
いやその能力もとはと言えばお前起因で起こした罪の贖罪に使えよ。お前の恋愛ごっことか知るかそんなもん。

メインキャラの恋愛模様だけであればあぁ良作だね、ってなるのだが「高瀬」というキャラクターの存在、そしてその処遇が余りにもノイズになりすぎて後半は死んだ目で画面を見ていた。

自分は映画鑑賞が趣味で、学生時代は良くレンタルしたもの、実際に劇場でみたもの合わせトータル何百と観ており何だかんだ話の骨子を覚えていない作品が正直半分くらいだが、10年経った今でも自分はこの作品を覚えている。多分一生忘れないであろう。自分にとってはそれほどのインパクトであった。


そもそも、「高瀬宋次郎」このキャラクターは必要だったのだろうか。序盤~中盤で物語を進める装置としてちょろっと登場して以降は一切触れることなくイケメンと主人公のいちゃいちゃに話が移行する。

自分の憶測でしかないが、これは、むしろ監督のある種露悪的とも言える学生社会のリアリティをあえて表現させるために登場したのではないだろうかと考える。

描かれていないが、現実的に考えるとおそらく彼はあの後彼は停学か退学を余儀なくされたのだろう。
彼をいじめたヤンキーはワンチャン停学くらいはあるかもだが最悪口頭注意アンド反省文くらいで済まされる可能性もあり、その後もこの件について大して反省せずのうのうと生きていくだろう。
そして本人はさすがにこの事件の後復学はしづらいだろうし引きこもりになってしまうことも予想される。発想を飛躍させると「無敵の人」になってしまう想像もつく。彼はちゃんとカウンター攻撃ができる男だ。その矛先が社会全体に向かって行くかもしれない。という妄想だが。

むしろ、ヤンキー崩れ何人かに囲まれラーメンを大衆の中で丸ごとかけられるようないじめを受け、尊厳を傷つけられた後にそこで終わるのではなく手段はともかくとして反撃の意を見せつけた。
むしろ自分はこのシーンの方がよっぽど感動した。
確かに全く関係ない子に消火器投げつけるのは自分でも擁護できないけどさ。せめてあの子じゃなくて真琴に投げてやれ。

当人としては、その後を考えると真琴の行動により彼の人生が大きく変わってしまったとも言える案件だ。ただ、映画のストーリーはそんなことおかまいなしでヒロインとイケメンのチューに全力で向かって行く。そして、それが日本中の涙を誘う。

その結果、話は先述の現実の自分の話に戻り
自分「あの話の高瀬くんって知ってる?」
知人「誰だっけその子、観たけど覚えてない」

ふざけるなと言いたい。
勿論彼を覚えてない知人に対しての怒りではない。
彼という存在をこの映画に作り上げた監督、そしてこの作品に対しての怒りだ。

何も悪くなかったはずなのに、結果人を傷つけることにしまってもなお忘れ去られてしまった存在。

これはフィクションではない、リアルそのものである。


フィクションというものは、非現実的なもの、現実ではありえないようなもの、それによって客を楽しませるものであると自分は思う。

もちろん、エンタメ映画は品行方正なものばかりではない。殺人事件などのミステリ、救いのない話なんてザラにある。そういった作品を否定している訳ではない。
(むしろ自分は一切登場人物に救いがないミステリーやサスペンス映画の方が好きだ)

ただ、この映画はタイムリープもの、未来から来たイケメンとの恋愛というフィクションに「高瀬」というリアルが歪にトッピングされている。非常に気持ち悪い。

まだ彼が結果自らの犯してしまった傷害事件についての落とし前をつけるため処罰されるという描写があるのならまだ分かる。それはそれで誠実なストーリーだと思う。
ただこの映画は、中盤にこの騒ぎがあった後に高瀬は存在ごと抹消されるのだ。これから始まるラブコメの装置としての役目を終えて。

ひたすらにこの件がノイズになってしまい、
「時をかける少女」は自分のワースト映画作品となった。もう二度と観たくない。

別にこの記事を見てくれてる人にこの映画を嫌いになれっていう風に言ってるわけじゃないし、この作品を好きな人も別に否定しない。

ただ、この作品が孕んでいる(と自分が感じる)露悪的な問題、その象徴である「高瀬くん」に思いを馳せてくれる方が1人でもいてくれたら幸いである。
「あぁ、高瀬くんってこの映画にいたね」くらいにはなってほしい。「誰だっけ?」は悲しすぎるよ。


上でちょこっと触れたサマーウォーズもそういうとこあるんだよな。
田舎の同調圧力、そして悪役とされるキャラが結果それに飲み込まれるのを美談とする。
よく分からん電脳世界での花札大会で戦いの場に立つのは主人公じゃなくなんか脈略もロジックもなくしゃしゃってくるヒロイン。

この映画以外にも世間で言われていることへの逆張りであれば、

「リメンバー・ミー」は主人公が抱えてたギターを祖母がぶっ壊してその後この件について全くの謝罪なくしれっと家族愛を描いてるので自分の中でピクサー史上ワーストの作品になったし(ピクサー映画は大体観てるしほとんど好きですよ)

「ドラえもん」なら、しずかパパが言ってた人の悲しみを悲しむことができてその逆に寄り添えるのはのび太じゃなくて出木杉君のほうだよね理論とか、
そもそもの物語の推進力である「ジャイ子と結婚するのが不幸」ってルッキズムの最たるものであんなん今やったら炎上不可避だろとか色んな作品見るたびに思う所はあるのだが、

こんな事ばかり書いてると
誰かに某漫画の「何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!」が画像付きで添付されてきそうなのでこの記事はここで締め。


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