本から飛び出た生き物たち
トビエイを見た。
水族館じゃなく、海で自由に泳ぎ回るのを見たのは初めてだった。
大学時代に行った沖縄でも、新婚旅行で行ったパラオでもなく、釣りに行った先のなんてことない近所の堤防で出会ったので、心の底からびっくりした。
帰宅後調べてみると、ナルトトビエイという種類らしい。
私はトビエイ=マンタと勘違いしていたので南の島にしかいないイメージだったが、マンタはトビエイの中でもオニイトマキエイの通称で、トビエイ自体は日本各地の海で見られるとのことだった。
漁業や養殖業に対して被害を与えることもあり、むしろいすぎて迷惑、みたいな書き方をされている。
そんなにいっぱいいるのに、自分が毛ほども存在を知らなかったことに改めてまたびっくりする。
だけど多分、そんな生き物の方がずっと多いのだろう。
元々生き物は好きだし、そういうジャンルの書き物をしているので、多分どちらかというとたくさんの種類を知っている部類に入るはずだ。
幼いころから図鑑を眺めるのが好きだったし、動物園や水族館には数えきれないほど行った。
でも実際自然の中に飛び込むと、名前のわからない生き物だらけだ。海や川、山などに行くたび、毎回Googleレンズのお世話になっている気がする。仕事柄「生物多様性」という言葉は一日に何度も目にするのに、私が想像できる多様性はあまりにも狭い。
私の頭の中の生き物たちはあくまで圧縮されたデータで、大部分が私の中では生きていないように思う。
だけどそれがわかるようになったのは少しずつ、ほんの少しずつだけど生きたデータが私の中に入ってきたからだ。
自然の中で生き物と出会うと、私の中のデータにぱあっと色がつく。
そして、そんな「自然」は実は私たちのすぐそばに存在してるのだと気づく。
これまで生活の大半を屋内で過ごしてきた。
外には出るけどほとんど「移動」で、周りの生き物に目を止める余裕なんてなかった。
でも、最近、生き物を見つける視野が広がってきた気がする。
例えば今ハマっている釣りは海の生き物とやりとりするだけの時間だ。
釣り上げた魚はもちろん、釣れない時間に海を眺めているとそれ以外にもいろんな生き物がいることに気づく。前述のトビエイや、クラゲ、ウミウシなんかも泳いでいるのを見つけた。顔を上げたらアオサギやトンビなんかが目に入る。
帰り道で、トカゲの赤ちゃんの死骸がアリに運ばれていくのを見つけたりする。
多分それらは普段の「移動」でも本当は目にしてた生き物たちだ。
私は割と田舎に住んでいるので日に10種類くらいは何かしらの生き物を目にしているだろう。
それを「なんか知らん虫」「なんか知らん鳥」「なんか知らん魚」で片づけなくなったのは私が「生物多様性」に興味を持ち始めたからに他ならない。
図鑑や展示物を見るだけでは、生きた情報を得られなかったけど、多分、自然に生きる生き物を見るだけでもそれはそれで、私の中に生きた情報は生まれなかった。知ったから目に入るし、知らないが際立つから調べたくなる。
正直、もっと子供の頃からいっぱい自然に触れておけばよかったな、と思わなくはない。でも40近い知識ばっかり蓄積してきたおばさんの私が初めて実際の自然に触れ始めたことで、見える景色もあると思う。
そこに「いる」生き物の、そこに「いる」事実をすとんと伝えていきたい。
自然や生物多様性は本やニュースの中にある「守るべきもの」じゃなくて、あなたを包み込んでいる。
人間はちっとも守るような俯瞰の立場にはいない。同じ地面に立っている。
あなたも私も生き物で、自然や生物多様性の一部だってことが気づけるような、そんな記事が書きたいな。
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