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子どもの黄色いクツ(詩集『季節の手のひら』より)

子どもの黄色いクツ


福島の震災ボランティアへ行った
防護服無しでは テレビ局も立ち入らない
原発から40km地点の小名浜海岸


瓦礫の山に 呆然とし
TVプログラムを見るように
現実感は湧かなかった

車を降りて無残な建築物の
写真を撮った


そこで初めて
現実が僕に訪れた


瓦礫(がれき)の下に
小さな黄色いクツを 
片方だけ見つけたのだ

僕のまわりを覆っていた皮膜が破れた

ベトナムの人達が集団で 
日本の被災者のために
祈っていた
彼らの故国でも そうであったように

僕はその意味は分らなかったが 
アヴェマリアの単語だけはわかり
やがて
アヴェマリアの祈りを捧げているのが聴こえ
頭(こうべ)を垂れ 共に祈った

 多くの家々は 津波で柱だけが残され
 家の中はといえば 
流されずに残った家財が
 時を忘れて 佇む


家の中 子供の椅子に
泥で作ったウサギが
リボンをつけて座らせてあった


一歳半の自分の子シオンが
“泥のウサギ”として そこに
座っていると想像すると
発狂しそうに狂おしくなり
自殺の文字までが頭に浮かんだ


僕は思わず 黄色い小さなクツを 
思い切り抱きしめ続けた


   ○


堪(こら)えて
5分間車で走り
小学校の校門の前で

涙で熔けるように 
大声で
泣いて 泣いて 泣いて
泣いた


それでも 避難所での炊き出しの為に
トイレの鏡の前で 笑顔の練習をした


   ○


一緒に炊き出しをした
ベトナムの人たちと握手し

ぽつりぽつりと 
小さな黄色いクツのことを話した

互いに 目を 瞳を 見つめ合い

涙をこぼした ドボドボと
彼らの瞳からも ドボドボと涙が滴(したた)った

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